いや確かに、やり出したのはオレです。
 でも、まさかこんなことになるって、思わないじゃん。


 だってあの夜は、そりゃあもう期待しまくって家出る前に尻の準備も完璧! ローションで濡れてるのがちょっと気持ち悪いけど替えの下着だって持ってきてるし全然OK! 約三ヶ月ぶりのセックス! ダーリン早くオレを抱き潰して♥ って感じの夜だったのだ。
 事務所から直接ユキの家に行くことだって出来たのに、それをしなかったのは念入りに準備するため。シャワーで全身くまなく洗ったし、準備から手伝うのが好きなユキの意向は完全無視でほぐすところまで一人でやって(いざセックス! からほぐすまでの時間が勿体ない)、あとはもう体力が尽きるまで何ラウンドもこなし、翌日のオフは一歩も外に出ず爆睡。
 そう、決めてたのに!
 そんな時に限って、ミキサーからユキに鬼電が入った。
 新曲の最終調整が難航している+ユキが散々提出日をズラしまくったおかげでマスタリングは今日明日中で終わらせなきゃアウト。
 ということで、ユキはオレの顔を見ることすら出来ずにスタジオにすっ飛んでいった。自分の遅れが全体の遅れに繋がっている自負はあるし、Re:valeの活動の中でもいちばん大事にしている部分をないがしろにするような人じゃない。
 ラビチャに入ったおかりんからの連絡、からのユキからの『本当にごめん』の一言。
 それを目にしたのは、ユキのマンションのエレベーターをルンルン気分で降りた直後で、
「……タイミング!!」
 と思わず叫んだ。

 合鍵で家に入ったはいいが、これはもう待てど暮らせど絶対に帰ってこないことを確信し、勝手にバスルームを借りてぐしょぐしょの下半身を丁寧に洗い流した。
 染みを作りまくっていたボクサーも手で洗って、贅沢にもそれ一枚を乾燥機に投げ入れる。
 使われることのなかった尻、ただただローションまみれにされて可哀想。流石に少しの虚しさは感じたものの、我が子のごとく可愛がる曲を捨ててまでオレとの逢瀬を選ぶユキは普通に解釈違いなので、素直にこれでよかった、とも思う。
 仕事憎んでユキを恨まず。いや別に仕事も憎くはないな。いつもお仕事させてくださって、本当に有難うございます関係者各位。

 シャワーも浴びてしまったし、今から誰かと約束を取り付ける気にもならなかったので、広すぎるリビングで設置費ウンびゃく万のホームシアターを前にぐうたらと過ごした。
 ご飯はユキに作ってもらう予定だったので何もなく(食材はしこたまあったがオレが手を付けていいシロモノではなかった。野菜なのにやけにピカピカしてたし)、階下にあるデリで色々と買い込んで持ち込んだ。
 バカでかいテレビをつけ、適当にザッピングして辿り着いたお笑い番組を流しながら、手当たり次第にデリに手を付けるこの感じ。
 優雅で怠惰で、かなり寂しい。
「やっぱ飲み行けばよかったかなあ」
 思わずこぼしても、ダメだよ、と咎める声は聞こえない。一人で楽しもうには今日に期待しすぎていたし、飲みに繰り出せば余計に虚しくなることは目に見えていた。
 じゃあここでいっちょ一人遊びでもしちゃいますか! とも考えたが、いくら恋人といえど他人の家でオナニーすんなよと言う話である。全然落ち着かないし、そんなことをするぐらいだったら、家に帰ってシたほうがよっぽどマシだ。
 かといって、せっかくの休みを寂しさを募らせて終わるのも建設的じゃない。
 誰を恨んでいるわけでもないのは本当なので、では今後に繋がる〝何か〟を考える時間にしようと、襟を正した。うそ。ソファに寝転んでいたところ、のそのそと起きた。

 で、スマホで検索したのが『セックス マンネリ』である。

 ユキが見たら、絶句通り越して「は?」って言いそう。
 もちろんオレたち二人の間にマンネリなど存在せず――オレがイメプレ好きということもあり、主旨変えの方法は多岐に渡るため――、これはただ、新境地を得るための旅の始まりに過ぎない。
 よりよい関係にはよりよいセックスを。
 っていうか、ユキがオレを抱きたすぎて仕事が早めに終わらせられる奇跡を。
 全然こっちが本音である。
 検索結果の最上位に出てきた文字をタップして目を通すと、初っ端から出てきたのは『目隠しプレイ』だった。ああ、それやったことあるなあ、と次。
 『拘束プレイ』……も、ある。警察コスでやった。なんならユキとベッドを手錠で繋いで乗っかったパターンもある。次。
 『スワッピング』……無い。し、今後も予定ナシ。というか誰とどうやって誰を交換するんだよという話である。もしオレとユキがセフレだったらあり得たのか? と考えるも、まあそれも、ナシだ。色々とリスキーすぎて勃つものも勃たなそうだし、そもそもユキのことが好きなので。基本のキ、守っていきたい。
 あれぇ。全然ダメだな。マンネリしてないし、プレイには試行錯誤を重ねているし、スワッピングは論外だし。いつも通りが一番ってこと?
 しかし記事は、そんなオレの思惑を全て読んでいたようにこう続いた。

『プレイがダメなら……”開発”もオススメ♥』

「ほ〜ん……?」
 重要な手がかりを見つけた探偵みたいな声が出た。
 ほ〜ん、なるほど。開発ね? 下半身の開発には勤しんできたけれど、確かに他の部位は未開発だ。俄然興味が湧いてきて、すいすいと読み進めていく。基本的に女性の部位への言及ばかりなので、オレにもこなせそうなものを探した。
 ええと、うなじ、鎖骨、舌、「あった!!」

 乳首!

 ……なるほど、乳首ね〜〜〜! 全然感じないとこだ!


 かくしてオレの自己開発は始まった。
 敏感にしすぎると仕事に支障が出るらしいけど、放っておいたらまた治るらしい。人体の神秘的かつ適当なつくりに感心しつつも、最終的に気持ちよくなれればどうでもよかった。
 そもそも、乳首で気持ちよくなるということ自体に懐疑的なので、もしかしたら失敗するかもなあ、ぐらいの気持ちでいる。
 開発といえど色々方法があるのかと思いきや、効果てきめんなのはひとつだけだとラビッターの裏垢男子たちは口々に語る。
 ズバリ、『乳首に軟膏を塗って絆創膏をして一週間過ごす』こと。
 現在一月下旬、夏みたく水着仕事もそうそう無いし、これはいいと早速始めた。
 ユキとセックス出来なかった日以来、顔を合わせる機会は訪れていない。同現場の仕事はそれこそ一週間後なので、その時までに開発が済んでいれば万々歳だし、まだ感度が甘かったとしても、トイレに連れ込んでヤッちゃおうぐらいのことは考えていた。
 何せもう限界なのだ。
 フラストレーションが溜まりすぎて、一周して一人で抜くのすら我慢していた。
 溜まりに溜まったもの、全てユキとのセックスで発散したい。きっとユキも同じ気持ちで、だからこそ顔を合わせられないのは、寂しくもあれどちょうどいいとも言えた。


  *


 そして実践開始から五日が経った。

(…………めっっっっっっっっちゃ、触りたいんですけど…………)

 裏垢男子たちの情報の確かさに、今更打ちのめされている。
 乳首で感じないなんて、逆に神話だ。人間全員、乳首は感じるように出来ている。そこにあるのは、開発の有無の差だけ。そうとしか思えないと、オレという経験者は語る。
 シャツの下で熱を持ちすぎてヒリヒリしている乳首は、こころなしか五日前よりふっくらしている気がする。なんか色もちょっと薄くなってしまった気がして、これ本当に大丈夫か? と人体の神秘を不安に思うも時すでに遅し。
(かゆいっていうか、じんじんするし、触ってスッキリしたいけど、一週間絶対触るなって書いてあったよな……? あと二日これやんの……?)
 絆創膏のおかげで布地の掠れは気にならないが、内側から熱を持っている感じが落ち着かない。
 こんなことで仕事に集中できないのはバカなので気合いで乗り切ってはいるものの、収録終わりに集中力が切れた瞬間、頭の中を「触りたい」が支配するようになってしまった。
 自己開発を思いついたときのオレに伝えたい。
 仕事で培った思い切りの良さを、ここで使うんじゃない、と。

 なんとか乳首から意識を逸しながら(なんだこの日本語)、本日最後の仕事へと向かう。岡崎事務所にて契約更新のサインをするだけの簡単な仕事だ。いちいち赴く手間を省くため電子化して欲しいのだが、他ならぬユキが楽器以外てんで機械に弱いので、オレたちの契約書に関しては現状このままらしい。
 他のタレントやスタッフたちはとっくに電子化済みとのことで、トップにならうような会社じゃなくて良かったよ、とは思う。
 でもさ、ということはさ。
「あ、モモ。久しぶり」
「……ユキ!?」
 こういうことが起こるわけで。
 やっぱオレだけでも電子化進めない!?
 聞けばユキは契約更新ではなく、一度延びてしまった取材の受け直しをしていたそうだ。音楽系の雑誌に呼ばれるのは大抵ユキ一人なので、オレが知らないのも納得。
 うちのダーリン、アイドルだけど音人とかロキノンとかのガチインタビューに載っちゃうタイプなの、イケメンすぎる。ちなみに一度同席させてもらったことがあったけど、何を言ってるかチンプンカンプンだった。呪文?
 ところでだ。ユキの顔を見てしまったオレは、その圧倒的オーラを前に――死ぬほどムラムラし始めてしまった。頭の中が一瞬にしてビビッドピンクに染まり、全身が茹だったように熱くなる。
 開発始めて、まだ五日だけど。もう五日経つし。
 ユキのこの後の予定は知らない。が、おかりんが余裕で事務仕事をしているということは、もしかして何も入っていないのかもしれない。
 いやもうマジでトイレ連れ込んじゃおうかな、おかりんとか社長には悪いけど……という最悪の考えが頭の中を支配していく。
 結果、特にその思考に抗うこともなく「ユキ、あのさ」と声をかけた。
 すると同じタイミングで「今からうち来ない?」と誘われて、一も二もなく頷いた。


 マクラーレンの助手席で、頭の中がふわふわしていくのをなんとかかんとか抑えている。じゃないと勢いで襲ってしまいそうだし、そしたら大事故に繋がる恐れがあった。
 相方の性欲が強すぎてRe:valeユキ大怪我……なんてことがあってみろ、後悔してもしきれないだろ。そう言い聞かせて必死に正気を保っていると、隣からユキの声が聞こえた。
「モモ、この前はほんとにごめんね」
「あっ、え?」
「一週間ぐらい前の」
「あ、ああ、大丈夫。オレもさ、あれからちょっと考えたこととか……あったから、むしろちょうどよかったのかも」
「……え?」
 ユキの声色が少し落ちて、火照っていた肌がちょっとだけひやりとした。
 あれ、なんかオレ変なこと言ったかな。とはいえ「考えたこと=乳首開発」とは流石に言えず「大したことじゃないよ」と濁すしかない。
「なら話せるでしょ」
「いや……う〜ん……ちょっと話しづらいっていうか、どうせこのあと分かるから」
「このあと? なんで?」
 いやだって触られたら反応ヤバいもん絶対。
 普段は「ふーん」でユキの方から適当に終わらせるような会話内容のはずが、なんで今日に限ってこんなに追求してくるんだ。
 相方兼恋人がセックスをより良いものにしようと、乳首開発を頑張っていました。なんて知ったらきっとユキは大喜び……するかは微妙だけど、悪い気はしないはず。ネタバラシするならもうちょっとタイミングを選びたいわけで。車の中で世間話的にするような内容じゃないことは、流石に分かる。
 っていうか早く家につかないかな。このままだと、マジで信号待ちでユキの胸ぐらを掴んでキスしそうなんだけど。
 オレが気もそぞろであることに気づいたらしいユキは、更に機嫌を降下させていく。
 とはいえ、オレがハッキリしないことを言うといつもこうなってしまうので、正直あまり気にしていなかった。


 から、びっくりした。びっっっっっっっっくりした。
 無事ユキの家に到着、「おじゃましま~す」と呑気に廊下を抜けてリビングへと到達した瞬間、後ろから肩を押しこまれ、思いっきりソファに倒された。
 視界が一気に暗転したせいで、一瞬何が起こったか分からずにうつ伏せの姿勢のままいると、上からユキがのしかかってきたので更に驚く。
 は!? 興奮する!!
「えっ、ちょ、ユキ?」
「ダメだよ、モモ」
「はいッ? なにがッ?」
「別れない。絶対」
 え? 別れるの!? オレたち!?
 と聞く前に、後ろから胸元に手を回されてギクリとした。「別れるわけないじゃん」の言葉が飲み込まれて、ひく、と喉が痙攣する。
 うわ、ヤバい。ぎゅっと抱き込まれているだけでかなりキた。
 しかも、ユキも焦りからか普段より動きが乱暴で、そのことに怖いぐらい興奮する。
(ええー、ユキ、オレと別れたくなさすぎて、必死になっちゃってるってこと!? そんなの萌えすぎて死にそうなんですけど……!?)
 萌えが先走った結果、別れ話について全く言及しないせいでユキの不安は悪化したらしく、熱い息がうなじにかかった。そのまま、ガブリと噛みつかれて、肩がビクッと震える。
「んあっ」
 想像以上に媚びた声が出て、そんな自分の声にさえ煽られた。噛み付いたところを舐められて、ねっとりとした感触に脳が融ける。
「あ、ふぁ、」
「モモ……」
 寂しそうな声に胸がぎゅうぎゅう締め付けられて、でもオレは悪い人間なので――もうちょっとだけ楽しませてもらうことに決めた。
 本当に恨んではないけれど、五日前、準備しまくって待っていたオレの寂しさの埋め合わせは、これということで。お願いしたい。


 会えると思っていなかったから、当然準備も出来ていなかった。
 ユキの家には全てが揃っているのでさして問題はなく、バスルームにて色々と仕込んでいる最中、ユキが入ってきた。それだけでも驚きなのに、「舐めて」と言われたのには、驚きを通り越して脳内に宇宙が広がる。
「え……えっ? いいの?」
「早く」
 ユキの声は不機嫌にも艶っぽく、それだけで耳を犯されている気分になる。突然のご褒美の提供に、オレは慌てて脱衣所の床に膝をついた。
 普段はオレが舐めるよりユキがオレのを舐める方が多いから、こんな要求をされることは殆ど無い。オレを可愛がれて嬉しいから、とのことだが、オレだって常に同じ気持ちだ。
 ユキは不安になると、分かりやすく愛情を示して欲しがる。
 そういうところ、寂しがり屋すぎるし、本当に可愛いし、愛しさが募るばかりだ。
 まあ腹はぐるぐる鳴ってるし、乳首は相変わらずヤバい感じなんだけど。
 ゴクリと喉を慣らし、スラックスのジッパーをいそいそとおろして、ユキのものを取り出した。
 この綺麗な顔と体に、これが付いてるってだけで死ぬほど興奮する。瞳をとろつかせたオレは、舌先を出して亀頭の先を舐め、それから食むようにして先端をゆっくり飲み込んだ。
「もっと奥までいれて」
「ん、ふ……」
 いれて、って言い方、ずるいな。家にいれて欲しがる子供みたいな拙い言葉づかいに茹だるほど興奮して、竿に舌をあてながら、お望み通り更に奥まで連れていった。
 根本の方は指でしごいて、舌でかわいがって、喉でなだめる。しっかり芯を持ってくれたそれを、じゅぷじゅぷと音をたてながら舐め続けた。
 普段、喉まで使って欲しがることは無い。それはユキが、オレの喉というか声に対して少しばかり敏感になっているからで、セックスにこの不安を持ち込ませるのは申し訳ないと常々感じていた。ちゃんと鍛えてるし、全然大丈夫なのにね。
 から、思いっきり、喉奥に擦り付けた。
「っ、モモ、それは」
「んぷ、へえきっ」
 ごちゅごちゅとオレの方から喉を使うので、ユキもたまらずといった風に、オレの後頭部を押さえた。
「んぐっ、あっ、ふっ、ぷはっ♡」
 抜き差しされる度に甘ったるい声が漏れて、それに煽られるように更に奥までねじ込まれた。えづきそうになるのをこらえる代わりに涙が出てきて、それにもめちゃくちゃに興奮する。
 理性ではちゃんとプレイだと分かっているのに、本能側で「無理やり」に置き換わっているのだ。喉を犯されている感覚に感じ入っていっていると、それは突如としてずるりと抜けていった。
「えぅ?」
 喉奥に思いっきり出してほしかったのに、ユキはそれを許さなかった。
 オレが何を求めているか完全に理解しているから。
「早く、準備して。寝室来て」
「……はい♡」
 呑気にハートを飛ばすオレを、ユキはなんとも言えない顔で見つめた。


 ……しかし。
 準備万端で寝室に足を進めていたオレは、いちまつどころかごまつぐらいの不安を覚えていた。ちょっと前までハートを飛ばしていたとは思えないような深刻さで、寝室の扉を開ける。
 宣言通りユキはベッドの上に腰掛けていて、オレを見た瞬間「どうしたの」と表情を曇らせる。
「準備、やたら時間かかってたけど……大丈夫?」
「うん……」
 オレの返事が全く覇気のないものだったことで、ユキの不安は更に煽られたようだった。
 でも大丈夫。その不安、今すぐ払拭してあげられるから。
 オレの、ごまつの不安と引き換えに。
 バスローブ姿でユキの目の前に立つ。あざといぐらい寂しそうな上目遣いと目があった。これが天然なのだから、やっぱりユキってヒモの才能に溢れている。そういうところも凄く好きだ。
「モモ、準備するのも辛かった?」
「え? あ、うーん……」
 まあ別の意味で辛かったかな……と言いかけて、ユキが本当にしょんぼりとした顔でもって、言った。
「もう、僕と、……したくない?」
 物凄く言いたくなさそうに、とつとつと言葉を落とすユキはたまらなく可愛い。めちゃくちゃに庇護欲をそそられるし、なんとしても守ってあげたくなる。
 こんなに綺麗で美しい人が更に可愛いさも持ってるとか、オレみたいなふつーの男は、とてもじゃないが勝ち目はなかった。
 よりよい関係にはよりよいセックスを。
 ユキがオレを抱きたすぎて仕事が早めに終わらせられる奇跡を。
 なんて求めたのが運の尽き。身の丈にあったペースで、オレたちは正しくすこやかにセックスをすべきだった。のに。
 覚悟を決めて口を開く。
「……ユキ、あのね」
「……うん」
「ちょっと、ここ、触ってみてくれないかな……」
 ユキの腕を取り、手のひらをオレの胸の前に持ってくる。ユキは、続く言葉が想像したものと違ったらしいことに「え?」と困惑していた。
「え、どうしたの。怪我でもした?」
「いいから、早く」
「……?」
 きょとんとしながらも、バスローブの上から胸をそっと触られた。
「んんっ! はぁっ、あっ♡」
「え?」
「も、もっと、さわって……っ」
 ユキの肩に片手をついて、砕けそうになる腰をなんとか支える。ユキは驚きながらも、オレの普段とは違いすぎる反応を前に、不思議そうにもう一度胸に触れた。
 バスローブの布地が引っかかって、体の真ん中にビリビリと電流が走る。
「んぁあっ♡ は、やばっ、きもちぃ、……ッ♡♡」
「え、モモってここ、そんなに弱かった……?」
 耐えられずにユキの上にくずおれると、ユキはそのままオレをベッドに引き上げ、いとも簡単に転がした。
 仰向けのオレの上に乗り上げ、バスローブの下ですでにぐしゃぐしゃになっているオレのペニスを見て、「なんで?」と素直な疑問をつぶやく。
「う、うしろいじってたときから、もう、ダメで……」
「……準備でも感じちゃったの?」
「だって、どんだけ気をつけても、乳首こすれるんだもん……」
「ええ? ……って、うわ、なにこれ、真っ赤なんだけど」
 バスローブの前をぺろりとあけたユキが、明らかに以前と様子の違う乳首に目を見開いた。
 鏡で見ても思ったことだが、ふっくらとして、色素は薄まって、真っ赤に熟れて見てるだけで痛々しいぐらいだ。自分で見てても目に毒なぐらい「触ってください」と訴えている。
「なんで、こんなことになってるの……」
 この様子に色々と察したらしいユキが、安堵のため息と共に、呆れのような、感心のような視線をオレに向けた。
 その「やれやれ」みたいな様子に、オレは今まで感じたことのないタイプの羞恥で舌をもつれさせながら――「かいはつしたので」と白状した。
「……開発?」
「開発。……い……いまのオレ、乳首で、イケると思う……」
「はあ……。なにそれ、すっごい楽しそう」
 ほらね。不安は払拭されたでしょ。
 もう元には戻れないかもしれないっていう、オレのごまつの不安と引き換えに!!


「うぅ、や、ああっ♡ やだやだ、もぉやだぁ〜〜〜〜っ」
 と、どれだけわめいても全然やめてくれない。舌で転がすように乳首を舐められて、ぐずぐずのどろどろになったそこを今度は指で押しつぶされた。なんなら両方一緒に責められて、手加減を知らないやり方に、さっきからオレはぼろぼろと泣きっぱなしだ。
「も、むり、むり、イケない、もうイケないぃッ」
「大丈夫。まだ出来るよ。ほら」
「ひぁっ♡ あ、あっ♡ ぐりぐりしないでぇ…ッ」
「する。してもらうためにしたんでしょ、開発」
「それ、はっ♡」

 そうなんだけど〜〜〜〜〜ッ!!!

 全然触ってもらえない下半身は吐き出した精液でどろどろに汚れている。堪え性のないそこは、何度イッたか分からなかった。
 もうイケないのに、無理なのに、なぶるようにされると、懲りずにまた芯を持つ。うんと手を伸ばしてユキのに触れようとしても指先に力は入らず、そもそも着衣のままのユキの服を剥けるほどの余裕はなかった。
 はあ、はあと荒い息を吐き出して、泣きながら「もうやだ」「セックスしたい」「はやく挿れて」と懇願しても、びっくりするほど許してもらえない。拷問である。
 今度は舌の面の部分でねっとりと舐め上げられて「んぅううぅう」と声が出る。舌先でつつかれるのも気持ちよすぎて苦しいけど、全部を食べるみたいに舐められるのが一番つらい。
 快感をどこにも逃がせないから、体の中に欲が渦巻いたまま、ぐるぐる回っている。吐き出せるものもないせいで、息苦しさにひたすら泣くことしか出来ない。
「やだぁ〜〜……ッ、ちくび、くるしぃ、もぉ、挿れて……っ」
 胸にくっついたユキの頭を両手で掴んで、無理やり顔をあげさせる。オレのギャン泣きの顔を真正面から見たくせ、ユキはそんなこと意にも介さず、にっこりと目を細めて笑った。
「ダーメ」
「なんでぇ〜〜〜!! いじわる〜〜〜!!!」
「うるさっ。だってモモ、僕が不安になってたの、分かってたでしょ」
「えっ?」
 ギク、と肩を震わすと「ほらな」みたいな表情に変わった。
「そりゃ、約束反故にしちゃった僕も悪かったけど。復讐の仕方がよくない。タチが悪すぎる」
「ち、違……いや二割ぐらいは、それもあったけど! でもオレ、しょんぼりするユキに、萌えてただけで……ッ」
「よっぽど悪いだろ」
 やっぱり許さないでいいよね。
 と、ユキは両手でオレの乳首を掴み、ぎゅうううううと力いっぱいつねった。
「うぁああああ〜〜〜〜ッ♡ ひっ、あ、あっ♡♡ いた、いたいっ、やだ、やだあっ♡」
「全然嫌じゃなさそうだから、お仕置きにならないんだよな……」
 まあでも僕も悪かったし、おあいこぐらいがちょうどいいのかな。
 そう呟いたユキは、オレのわんわんわめく口をキスで塞ぐ。薄い唇の柔らかさに一瞬気が抜けたところ、舌が侵入してくるのと同時に、乳首を爪でバチンと弾かれた。
「ッ〜〜〜♡♡ っ……!!♡♡」
 口を塞がれているから、恨み言も、嫌だもやめても言えない。更には舌が腔内を蹂躙するように動き、上顎をぐりぐりとこすられて死にそうだ。キスで一番弱いところを知られている上、先程のフェラで口の中も相当敏感になっている。
 息つぎがうまく出来ず、力任せに胸を叩いてもユキはちっとも離してくれない。いい加減死にかけて、舌で舌を捕まえて軽く噛んだら「痛っ」と流石に離してくれた。
「ちょっとモモ、行儀が悪いよ」
「ゆ、ゆきが、おれを、殺そうとするから……ッ」
 ぜえぜえと息を整えながら、唾液まみれの口を拭う。けれどユキは悪びれもせずに「仕方ないだろ」と言った。
「モモが僕を、不安で殺そうとしたんだからさ」
 拗ねた顔はやっぱり庇護欲をめちゃくちゃ掻き立てる。窒息しそうになっていたことは頭から飛んで、心臓がぎゅんぎゅんと音を立ててときめいた。
 やっぱりユキって、ハイパーキュートでラブリーで、意地悪なスパダリのイケメンだ。そんなユキに、やっぱりオレは勝ち目がない。
 少しだけ体を持ち上げて、ユキのスラックスに手を伸ばす。明らかに反応していることが見て取れて、口の中が唾液でいっぱいになった。
 乳首もいいけど、やっぱり舐めたいし、挿れられたいし、揺さぶられたいのだ。
「ユキさんや。こっちも不安じゃない? 早く挿れないと、寒くて死んじゃわないッ?」
 恥も外聞もないいいざまに、ユキは「しょーもな」と言ってくつくつと笑った。


 うわぁ、バッキバキ。
 ローションまみれになったユキのペニスを凝視する。よだれが出そうになるのを我慢して、勝手に膝を持ち上げて自分の手で太ももを固定し、挿れてください、という姿勢をとった。ちゃんと後処理をするから、今日はナマでお願いします、とオレから言った。
「はは、エロいね」
「ほんと?」
「うん、悪いことしてるみたい」
 実際は超がつくほどイイことなので、オレは満面の笑みで「早く」と急かす。
 準備万端の穴ははしたなくひくついていて、そこにぴったりとユキの先端が充てがわれた。ごく、と期待に息を呑むと「あ、忘れてた」と言って、いきなり右の乳首をぎゅうううっとつねられた。
「ひ、ぎ、っ……!?♡♡」
 全身に電流が流れるぐらいの衝撃。それと同時にユキのペニスが一気に割入ってきて、ぐぷぷぷ、とエロい音が寝室中に響く。二箇所同時に強烈なほど責められて、オレはそれ以上声も出せずにビクビクと仰け反った。
「♡……ッ♡♡」
「っ、は、すっご、締まる……」
 気持ちよさそうなユキの声が遠い。はくはくと口を動かして何か言おうにも、気まぐれにつままれる乳首への刺激が強すぎて、悶えるのが限界だった。
 そこにピストンの動きが足されて、ペニスが出し入れされる感覚に鳥肌が立つ。竿にちゅうちゅうと吸い付くヒダごと持っていかれそうで、なのにすぐに押し込まれて――その繰り返しが気持ちよすぎて、頭がおかしくなりそうだった。押し込まれるたびにオレの腰も一緒に動いて、もっともっと奥に誘導してしまう。
 ごちゅっ、と一番奥の壁に先端がブチ当たって、「んぎぃっ」とひっどい声が出た。
「あぐっ、はぁっ♡♡ やだぁっ、あっ、むり、むりぃっ……♡」
「っ、一番奥まで来ちゃった? 気持ちいい?」
「んあっ、ゆ…っ、ぁあっ、ひっ♡」
 返事なんて出来るわけもない。
 オレがいっぱいいっぱいなのが愉快でたまらないのか、ユキは強く腰をゆすりながらも笑っている。切れ長の薄縹が欲に濡れて、ゆらゆらと熱っぽく揺れているのがたまらなかった。
 ゆっくりと近づいてきたユキの眦は赤く染まっていて、いよいよ興奮し切っているのが分かる。舌でつんつんと唇をつつかれて、言われた通り薄く唇を開けると、そのままかぶりつくようにキスされた。
 シーツをきつく掴んでいた手を離して、ユキの背中に回す。
 これ。この、さらさらの髪の毛を掻き回してするキス、めちゃくちゃ好き。
 舌同士をめちゃくちゃに絡ませて、お互いに口の中をなぶりあう。唾液が口の端から漏れるほど夢中でキスしていると、ユキがまたしても乳首をきゅっとつねった。
「っ♡ っっ♡♡」
「っ……! ちょ、モモ……ッ」
 ナカが強烈に締まった瞬間、ユキが思わず腰を引きかけたのを両脚で引き止めた。いわゆる大好きホールドってやつだ。
 思うよう逃げることの出来なかったペニスは、ぐにゃぐにゃにうごめく内側に溶かされて、ユキはたまらず熱い息を吐いた。
「はっ、……はあ、……っ」
「ん……っ♡ はあ……♡」
 びゅくびゅくと、火傷するほど熱い精液が一番奥に注ぎ込まれていく。本能的な動きなのか、種付けするみたいに射精しながら奥に奥に叩きつけられて、オレも一緒にイッた。
 ……と思ったら、精液が出ていなくて、焦る。
「あ、れっ……?」
「……うん? どうしたの」
 吐精後の気だるさがにじむ声ですら、体がビクビク反応する。イッたのにイッてないような感覚が怖すぎて、不安げに瞳を揺らした。
「やっ、なんか、い、いったのに、なんか、ずっと、きもちくて……っ♡ あっ♡ は、やだ、あれっ、あれ……っ?」
 ユキは全く動いていないのに、オレだけが勝手にビクビクと反応し続けている。ナカも同様に動き続けているのか、ユキも「っ、」と苦しそうに反応した。
「はっ……、すご、どうしちゃったのモモ。乳首、そんなによかった?」
「ひぐっ、ちょ、やだ、もうそこ、いじんないでえっ」
「やだ。楽しいから、触らせて」
 明らかに様子がおかしいオレを更におかしくしようと、ユキが少年みたいな顔でもって両手でオレの乳首をつねる。それから親指の腹でぐりぐりと押されて、次にまた爪で弾かれた。
「ちょっ♡ あぁっ♡ は、むり、またいく、いくいくいく〜〜〜ッッ♡♡」
 乳首だけでイケるようになってしまったオレの体は、それでもやっぱり吐精しない。ナカがぐしゅぐしゅに動いているから、達した感覚を体は共有しているはずなのに。
 イッたのにイキきらないことが苦しすぎて、オレは脚をじたばたと動かしてギャン泣きした。
「やあっ、も、いきたいっ、いきたい〜〜ッ!!」
「ああ、これあれだ。ドライでイッてるんだね。……大丈夫、このまま続けてれば、治るよ」
 ユキが額にちゅっとキスをする。いや絶対ウソだろ適当言ってるだろ分かってんだからなと睨みつけたら、いつの間にか復活していたペニスを、ぐりっ、と奥に擦り付けられて「あんっ♡」とバカみたいな声が漏れた。

「モモってほんと、バカでかわいい……」

 心底惚れ惚れと言わないでほしい。オレだってオレがバカであることぐらい、十分すぎるほど分かっているのだ。
 愛がなきゃこんなこと絶対しないんだからな、と、もう一度脚に力を込めて全身でぎゅうぎゅう抱きしめた。ら、めちゃくちゃ腰を振られて、秒でイッた。


  *


 余談。
「え、あれで開発終わってなかったの。威力凄いね」
「いやでも五日で終わらせて良かった。あれ以上続けてたら、人間じゃなくなってたかも……」
「面白そう」
「は?」
「次は一週間、やってみようよ。セックス中も触らないようにするし」
「……はっ?」
 かくして、モモちゃんの乳首再開発編が始まるのだった。死ぬって!



愛こそ物の上手なれ