某女性誌が一年に一回行う超目玉特集。
 その名も『愛あるセックス特集』
 に、なんとオレが呼ばれた。
 しかも、ユキよりも先に。
 素直に不思議で、そして不満だ。岡崎事務所の社長室、上等すぎるソファにごろごろと寝転がりながら、厚い企画書に目を通す。社長の小言がうるさいので、流石に靴は脱いでいた。
 ……おかしい。
 何度読んでも『愛あるセックス特集:Re:vale・百』と書いてある。
 自然と眉間にシワが寄って、喉がぐるぐると唸った。
 だってオレ、凄い楽しみにしてたんだよ、ユキが特集されるの。最低でも二十冊は買ってIDOLiSH7やTRIGGERの子たちにオレのサイン入りでプレゼントしようと思ってたのに。在庫が足りなければお取り寄せも辞さない覚悟だったのに!
 テーブルを挟んで反対側に座るおかりんは、眼鏡のツルを持ち上げたり戻したりしながら、ひたすら苦笑いだ。兄の凛太郎——この事務所の社長は、王様デスクに両肘をつき、いつも通り余裕の笑みを見せている。手の甲に顎を置いて、眼鏡の奥の瞳は上機嫌に眇められていた。
 うわーなにその顔、怪しい。ここにユキがいたら、ムカつくって理由だけで眼鏡割られてるよ。
「ねえねえおかりん。これってさ、単位間違っちゃったんじゃなくて?」
「0が足りないということですか? アラビア数字で百くんを表すことはそうそう無いのでは……」
「ネットには結構いるけどね」
「百くんダメです。それは禁句です」
 だってエゴサすると出てきちゃうんだもん。たまにね。1100って表記とかね。なんのことかはちっとも分かりませんけども。
 まあそれはいい。それはいいんだよおかりん。そういうことじゃないんだよ。
 ガバっと起き上がって、真正面からおかりんに向き合う。ゼロズレのドセン。ファンサを効かせるには最強の位置取りだ。
「ぜーったい、ユキが先の方がいいって!!」
 ガバッと腕を開いて、大仰なまでに主張する。
「この部屋に入ってきてから十回は聞いたぞ百」
「社長は黙ってて! ……だってさ、一年に一回っていう貴重な機会なのにさ、オレが先やっちゃったら次は最低でも一年待ちじゃん。それって絶対よくないよ。ユキファンがどれだけこの特集を待ちにしてたか、おかりんだって知ってるでしょ!?」
「うーん。それはそうなんですけどね。編集部からは絶対百くんで、という依頼なんですよ」
「なーんでー!!」
 もう一度ソファに倒れ込んでじたじたと暴れる。「駄々を捏ねるなアラサー」とド地雷っぽい言葉が飛んできたような気がしたけど無視無視。
 そりゃオレも抱かれたい男ランキングのランカーではありますよ。ありますけども。
 セックス特集なんて、実際問題ユキ以外あり得なくない? オレって多分ギャップ萌えの方で支持されてて、あんまり正統派とは言えないし。分かりやすく色気があって女性モデルと絡ませて映えるのはユキでしょ。女性がホワイトアウトする危険性はあるけど、まあそこはなんとか頑張っていただいてさ。
 むしろ今までの五年間で一度も誘われてなかったことが不思議なぐらいだ。毎年ユキでセックス特集組んだっておかしくないのに。もうオレが企画巻き取って、FC会報とかでやればいいのかなぁ。そしたら毎号セックス特集になっちゃうけど。ネタそんなにないけど。でも、それぐらいユキ向けの企画なんじゃないの!?
 編集部が何を考えているのかちっとも分からなくて、オレは社長の言う通り、駄々を捏ね続けてしまう。
 しかも撮影、来週頭って。体作ってる暇もないじゃん。
「今からジム行っても間に合わないよ〜〜〜モモちゃん、正直ぷりっぷりの桃尻だよ? 今……」
「それがいいとご希望頂いてますよ」
「うそぉ!? なにそのニッチな要望!?」
 信じらんないと騒げば、社長の口から更に驚きの事実が飛び出す。
「逆に鍛えさせない為にこっちで今日まであっためてたからな。実際依頼もらったのは二ヶ月前だし、その時点でOKも出してた」
「はあ!?」
「まあ、百くんは鍛え始めると止まらないので、自分としても今くらいでちょうどいいと思いますよ。鍛えた体を元に戻すのにも、それなりに時間がかかりますし」
「うっ……。まあ、腹筋は結構すぐバキバキになっちゃいますけど……」
「需要への理解が足りてないんじゃないのか?」
「だから社長は黙っててってば!」
 っていうか二ヶ月前からOKしてたって、今更ユキに変更は絶対出来ないってことじゃん。ジトジトした目でおかりんを見ると「撮影の翌日はオフにしてあげますから」と割と雑に機嫌を取られた。
 そういうことじゃないんだよ。おかりん!


 そしてあっという間に月曜日がやってきてしまった。
 収録はスタジオではなく、都内某所のラグジュアリーホテル。押さえられているのは当然スイートルームで、最上階のフロア全て貸し切りにしているらしい。
 こういうホテルにも慣れてはきたものの、入室時にはやっぱりテンションが上がってしまう。バカでかいシャンデリアとか、ロココ調の椅子とか、ベルベッドのカーテンとか。ここはラグジュアリー系の中でも、大分コテコテタイプのホテルみたいだった。
 ユキのセックス特集については、撮影が終わってから編集長を捕まえ『Re:vale5周年記念ムックを作るのはどう?』と相談することに決めている。おかりんにも許可は貰い済みである。
 そこで大々的に取り上げてもらえれば、双方にとってwin-winだろう。発行部数えぐいことになるだろうし、オレも企画に噛めるし!
 ふんすと気合いを入れて、控室代わりの個室へ。個室と言ってもそこだけでリビングぐらいの広さがあるらしく、逆に落ち着かなそうだね、なんておかりんと喋りつつドアを開けた。
 ら。
「あ、モモ。遅かったじゃない」
 そこにはオレのスペシャルミラクルハイパージェントルダーリンが。
「………………ユキ?」
「うん。Re:valeのユキだよ」
「………………おかりん?」
「はい。岡崎事務所のおかりんですよ」
 じゃなくて。
「いや、……え? 今日ってオレの撮影だよね。見学に来たの?」
「そうですね。見学ではなく、百くんと千くん、二人の撮影です」
「……………………は?」
 そこでオレは完全に理解したのだ。
 これがドッキリだということに。

 いつから撮られていたのか全然分からない。ハンディカメラで隠し撮りってことなのかな。もしかしてあの社長室の時から? だから社長は含み笑いだったの? 今の時点で撮れ高どんぐらい? いやでも、明らかに今からの撮影をこなさないと尺足りないよね。
 あ。もしかしてNext Re:valeの特別企画?
 となると、ユキも絶対に仕掛け人側だ。もはやオレの味方はオレしかいない状態だと考える。寝起きドッキリとかもそうだけど、ガチで事前に何も言われないパターンと流石に教えてもらえるパターンの二種類があって、今回は確実に前者だった。
 0.5秒でそこまで読み切り、オレは何も気づいていませんよという体で派手にリアクションを取った。
「ちょっと、それならそうと先に言ってよお〜!! オレ、ずーっとユキの特集見たいって言い続けちゃったじゃん!? なんで教えてくんないの!?」
「教えたら『絶対嫌だ。ユキ一人でやって。オレは撮影側に回るから!』って言うだろうって、凛太郎がね」
「…………それは……まあ、そうなんだけど!!」
「否定しないんかい」
 くつくつと喉を鳴らして笑うユキ、超カッコいい。
 どうやってお手入れしてるのってくらいサラサラの髪の毛を片側に寄せて、長すぎる脚を放り出すみたいに組んで、たまんない。
 あ、飲んでるのは白湯かな? 白湯なのに超高級ハーブティーに見えるよ。16時という時間も丁度いいのか、寝ぼすけな顔もしてないし、今世紀稀に見る最高のイケメンだよ。寝ぼすけなユキも超キュートだけどね? っていうか本当に顔綺麗だねユキ。凄い。超好き。
 なんてちょっと見惚れちゃって、慌てて表情を作り直した。ぽわぽわしてる場合じゃないのだ。
 Re:vale二人でドッキリにかけられることはあっても、片方だけは初めてのことだった。ユキがやたらと機嫌よく笑っているのはオレを騙せていると信じているからにほかならない。
 任せてダーリン、オレはRe:valeの百。バラエティ界の最後の希望だよ。知らんけど。
 仕切り直しの意味も込めて、立ち尽くしていたドアの前からユキの隣に極自然に座る。
 円卓にはフルーツの盛り合わせと、ガラスのアイスペールが置いてあった。アイスペールにはももりんが入ってて、こんな高級そうな扱いしてもらうの初めてじゃない? 君も。と思いつつペットボトルを引っこ抜く。いつも通り喉に流し込みつつ、あくまで自然、全く気づいていませんよ、と態度で示した。
「っていうかさ。オレとユキだけでセックス特集……ってことは流石にないよね? 結局どんな特集になるの? バディ特集的な?」
「え? そのままセックス特集だけど」
「にゃはは! またまた〜」
「そのままセックス特集ですよ、百くん」
 ……ゴク。ちょっと多めに空気を飲み込んだせいで、嚥下音が部屋に響いた。
 いや、……うん。なるほど。そういう流れですか。理解しました。
 っていうか、その場合に問題が一つある。
 あの、いくらドッキリだとしてもだよ。オレの表情は素で曇っていく。
「Re:vale二人で女の子取り合う系の撮影、オレ的にはあんまりオススメしませんが……」
「へえ。なんで?」
「なんでもどーしてもないよ! そこにオレが居るってのが良くない! ユキと女の子のセクシーな場面見せられたら、オレが嫉妬しちゃうでしょお!?」
「そうね。そう言うと思って、今回は僕たち二人だけの撮影だよ」
「へ?」
「おお〜……本当だ。千くんの言う通り、文句言いましたね。千くん、ファインプレーです!」
「イエーイ」
「イエーイ」
 いや二人とも、ハイタッチしてる場合じゃないでしょ。
 え。じゃあ二人で撮るんだ。そっか。……いや、マジで?
 オレは今混乱してますよ、という顔を作りつつ周りのスタッフを窺う。『百、動揺中』みたいなテロップを入れる為の間だと思ってもらえればいい。いつもの茶番に対して楽しげな笑い声があちこちから聞こえて、みんなやたらと自然だ。演技派だらけで怖くなっちゃうよ。
「一応確認だけど、それだとオレとユキが、そういうことしてます! みたいにならない? おかしくない?」
「そこが狙いというのもあるのでは?」
「お、おかりん! 赤裸々だよ、赤裸々すぎるよ!?」
 おかりんが1100のこと禁句だって言ったのに!?
 っていうかこの辺の会話、放送に乗せていいのかな?純粋な疑問。
 まあ、大体こういうのは段階がある。何段階目でドッキリだと気づくか、というのも撮れ高に関わってくるし。
 うーん。瞬間最高視聴率のことを考えるなら、ベッドの上でバスローブ脱ぐ直前に「いややっぱおかしいでしょ!」と叫ぶとか、かな?
 となるとユキの裸を見ることになるわけで、それってどう? モモちゃん的に耐えられる?
 まあ本当に耐えられそうになかったらギブアップしよう。大丈夫、足りない分の尺は反省会しますし。なんならずっと気付いてたよって逆にダメな点解説してあげますし。
 なんて色々と考えている間に、準備が始まった。それぞれ別室に移動からの着替え、メイクとセット。思いっきり脱ぐ――という設定――なので、前貼りは必須だった。
 なんやかんやで人生初前貼りなんだけど、それがこの現場ってどうなの。
「相方との撮影で前貼り……」
「なかなかない経験ですよね」
 イケメンなメイクさんにニッコニコで言われて、曖昧に微笑む。オレも仕掛け人側だったら超テンション上がっただろうけど、騙されてあげっぱなしでいるのもなかなか疲れるものだった。
 バスローブの前を閉じて、撮影現場に向かう。今回の現場は男性だけだと事前に聞いていた。ユキのことを考えると女性スタッフを沢山入れるわけにはいかなかったんだろう。どれだけプロ意識の高い人だって、女優でもモデルでもないとなると、Re:vale・千のほぼ全裸を前にしたら、ホワイトアウト案件だ。雑誌まで出演NGになるのはマズいので、懸命な判断ではある。
 でもさ。オレもホワイトアウトしたらどうすんの? 女性だけに有効なわけじゃないでしょ。ユキのフェロモンって。
 ベッドがある部屋に向かう間、そんなことばかり考えて無駄に緊張している。この顔もどこかから撮られていて、『緊張の面持ち』ってテロップをつけられ、スタジオの笑い声を重ねる編集をされるんだ。覚えてろよテレビ局。ノリ的にはH局か? 絶対いつか仕掛け人として出てやるからな!

「モモ、こっちだよ」
「あ、ユ……うわっ」
 キングサイズのベッドは流線型のフォルムでかなり今どきのデザインだ。白レザーが基調になっていて、その上に純白のシーツが敷かれている。ヘッドレストに背中を預けて優雅に座るユキの姿に、オレは素直に声をあげた。
 待って。バスローブの前、もうちょっとちゃんと閉じて!? 肌がめちゃくちゃ見えてるよユキ!!
「あはは、何その声」
「いや笑い事じゃないんだけど!? え!? オレ隣に座るの!? な、なんで……!?」
「なんでじゃないでしょ。撮影だからでしょ」
「じゃあちゃんとバスローブ着てよぉ!」
「これから脱ぐのに?」
「ギャーッッッ」
 ヤバいもうホワイトアウトしそう。まだ撮影始まってもないしバスローブ脱いでもいないのに。撮れ高ここがマックスじゃない? まだダメ? 慌てて遠くの方にいるおかりんを見つけ目配せするも「がんばってください!」とガッツポーズを向けられた。残念ながらまだダメっぽい。
 え、本当に?
 ぷるぷる仔犬のように震えながら、そろそろと近寄りベッドサイドに腰掛ける。
 一緒のベッドで寝たことなんて散々あるけれど、げろげろに酔っ払ってユキのベッドに一緒にダイブとか、そういうのばっかりだったわけだからさ。こういう、なんか、準備万端ですよみたいな空気、死にそうに緊張するし恥ずかしい。
 どうしよう、オレのこの反応かなりガチっぽくない? これ使える? あとで見せてもらってダメそうだったらオレ判断でNG出させてもらおうかな?
 カメラマンの準備も整ったようで、さて始めましょうかとスタッフ一同お辞儀する。最初はバスローブを着たままの撮影らしく、オレへの指示は「寝転がって、千さんを上目遣いに見つめてください」
 ……そんな露骨に「今からセックス始めます」みたいな画、撮るの? いる? それ。
 全体的にテレビ向けじゃなさすぎてかなり不安になってきたけど、指示の通りベッドへ寝転がった。
 まあ、いつまでも震えているわけにいかない。仕事は仕事。こういうぶっ飛んだ企画は、ちゃんと演者が全うした方が面白い画が撮れるのも、分かってる。
 寝転がったオレの頭をユキが優しく撫で、そのまま頬を滑った。細く冷たい指先が心地よくもくすぐったくて、思わず少し笑ってしまう。
「あ、百くんその顔いいよ! もっとちょうだい!」
 素の反応を「いいよ」と言われるのは大分微妙だけど、求められた画になってるならいっか。
 今度はユキに対して「隣に寝そべって」という指示が出て、俺たちは体を横たえながら向き合う形になる。至近距離にユキの顔があり、しかもバスローブから肌が見えて――〝心頭滅却〟の四文字を頭の中でひたすらに読み上げて平静を装った。心臓がバクバク鳴りすぎて痛いんですけど。このままじゃ顔に汗かいちゃいそう。せっかくメイクしてもらったのに。
 パシャパシャと近くからシャッター音が聞こえて、そのお陰でこれが仕事であることを忘れずにいられる。――この写真自体はお蔵入りだろうから、オレが買い取っちゃおうかな。オレの写真はいらないから、ユキメインで写ってるやつをぜひ。
「よし、じゃあ脱いでみようかー」
 AVの撮影? と全く同じことを思ったらしいユキと、二人で笑いながら起き上がる。
 オレが自分で脱ごうとしたところで、ユキが「待って」と言った。はて。
「僕が脱がせていい?」
「え、なんで」
「なんでって、そうしたいから」
「……流石にガチっぽくない?」
「セックス特集なんだからいいでしょ」
「うっ……そ、そうなんだけどぉ……?」
 なんでそんな平静を保っていられるんだこの人。モモちゃんさっきからびっくりしっぱなしなんですけど!? 流石にこの辺でギブアップするべきか、とも考えたけど、その間にユキの手がオレのバスローブに伸びてしまった。止める間もなく、するりと脱がされる。
「て……手練〜〜〜……」
「モモやってよ」
「ひいぃ……」
 もう無理です……と顔をぎゅっと顰めると「百くんもっと真面目に!」なんてカメラマンから怒られてしまった。今ほど真面目なことありませんけど!? と叫び出したくなりながらも、決死の思いでユキのバスローブに手をかけた。
 震える手で脱がせば「慣れてないな」と笑われる。違う違うユキが相手だからであってオレだってもっとスマートに出来るんですけど完全に誤解なんですけど。
 でも、なんにも言い返せない。こんなに肌が綺麗で美の権化そのものなのに、筋肉の付き方がちゃんと男でびっくりしてしまう。うっすらと浮き上がる腹筋を撫でてみたくて指を伸ばし、ピタ、と止めた。
 いや、何してんの?
 もう限界じゃない? これ。
「あれ、触らないの」
「む、無理です……」
「じゃあ僕が触っていい? モモの桃じ」
「ぜっっっっっっっっっっっっったいダメでしょ!!」
「わ、驚いた。そう?」
 いやぜっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっったいダメじゃない? どんなAV? ってなっちゃうでしょ? 流石に? 相方の尻を、直接触るのは流石に!?
 今ので思いっきり素の大声が出てしまったので、ここが潮時だと判断した。
 ユキは頭にクエスリョンマークを乗せていて、流石演技の天才だよとため息を吐かざるを得ない。
「ユキ……オレ、頑張ったよね?」
「? 頑張るのはこれからじゃない?」
「十分頑張ったと思う。もうこれ以上はオレ、やり切れる気がしませんっ」
「それは困るな」
「いーの! もう十分でしょ! ドッキリこれにて終了〜!」
 顔は真っ赤だろうけど、なんとか笑顔を作って両手をわーっと広げる。はい、ドッキリ大成功〜!
 しかし、ユキの反応は芳しくなかった。
「……うん?」
 周りの空気も一瞬にして固まる。
「……あれ?」
 それから、ワッと一気に盛り上がった。
 あ、びっくりしたあ! 何かを間違えたのかと思った。やっぱりドッキリだったんだ。だよね、そうに決まってる。
 胸を撫でおろし、はあ〜……と脱力してベッドに体を預けると、何故かそのままユキが覆いかぶさってきた。まるでキスをするみたいな距離までユキの顔が近づいてくるので、思わず手のひらを頬にひっつけ、ぐいっと押し返す。雑に扱ってごめんね。でももうそれ必要ないから。モモちゃんの心臓いくつあっても足りないから!
「もう続けなくていいからー……ってここも撮られてるでしょ絶対……」
「そうだね。撮られてるよ。ドッキリじゃないから、映像じゃなくて写真を、だけど」
 押し付けていた手を外されて、何故かユキの首元に回される。顔を引き寄せるみたいな構図を作られながらも、会話は続いた。
 あれ? そういえば、シャッター音が続いている。テレビ用のカメラが飛び出してくることもない。
 ドッキリじゃない。ってなに?
 銀糸のカーテンの中で、二人だけの内緒話のように声を潜め、ユキが微笑む。
「今みんなが笑ったの、『ドッキリだと思ってたんだ』の方のやつね」
 ……。…………。
「…………じゃあ、ギブアップは?」
 耳元に、ユキの唇がわざとらしく触れた。
「させない」
 何も纏っていない腰を引き寄せられて、オレは叫ぶことすら出来なかった。


 【累計発行部数100万部突破!】と、ネットニュースの見出しに何個も並んでいる。隣にはRe:valeやセックス特集の文字。
「へえ、この前の特集号そんないったんだ」
「あれだけセンセーショナルな表紙なら当然」
「……あれ? お疲れさま。全然気づかなかった」
「ここは社長室で、お前はさっき俺と目が合った筈だよな?」
 凛太郎の発言を無視して、スマホに指を滑らせる。
 見出しには【Re:vale禁断の領域に挑戦!】だの【Re:vale特集重版分も即完 その理由に迫る】だの様々な文字が躍っていて、世間の賑わいっぷりに上機嫌になった。
 話題になればなるほど、モモの恥ずかしがる顔が見れるから。とてもいいことだと思う。
 完全にキスをしているようにしか見えない表紙も刺激的だと評判で、最後の最後までモモと揉めたことを思い出す。モモとしては、この写真を使われるのは断固拒否だったらしい。最終的には凛太郎判断でGOサインが出たので、その時ばかりはこの社長を見直した。
 あの撮影からもう二ヶ月。発売したのは先週で、未だに書店やコンビニで実物を見たことはない。今日も今日とて、IDOLiSH7やTRIGGERの面々から、入手報告のラビチャが届いている。きっとモモには、この何十倍もの連絡が入っているのだろう。そしてそれが届く度、顔を赤くしたり青くしたりしてるに違いなかった。
 想像しただけで可愛くて愛しい。満足げにスマホの画面を閉じポケットにしまったところで、凛太郎からの問いかけが飛んできた。
「そういえば、なんで一人での撮影じゃNGだったんだ? 百とじゃなきゃやらない、って言われた時は流石に驚いたぞ」
 あまりに察しの悪い質問に、はあ、とこれみよがしにため息をついてやった。
「そんなことも分からないのか?」
 立ち上がり、出口へと向かう。質問に答えろよ、とでも言いたげな視線を感じて、ドアノブに手をかけたところで振り返った。
 ただのセックス特集ならまだしも。
「〝愛ある〟セックス特集、だからでしょ」
 そんなの、モモ相手以外には考えられない、ということだ。
 
「……なるほど。聞かなきゃよかった」
「本当に失礼な男だな」


「早く本人に言ってやれよ」と社長は言った。