二人で飲んでいる時って、へべれけになるまで酔うことはあまりない。大体はレコーディング終了記念とか、ライブ終わりの4次会とかで、そもそもべろべろになるほどの体力が残っていないのだ。
とか言いつつ、今日のオレ達はぐでんぐでんに酔っ払っている。前後不覚になるまで飲み続け、大きいベッドで寝落ちして、ちょっと酔いが覚めたところでもっかい飲み直し。
今までやったことのないような飲み方は、端的に言って、超楽しい。
とある番組の企画で、オレとユキの二人ロケが行われたのが昨日。
スポーツ用品店がスポンサーということもあって、今回はウィンタースポーツメインの撮影だった。いつも通りオレはアウトドア担当、ユキは料理担当。
しかし、あとはユキのご飯を食べるだけ、というところで、突然大雪が降り始めたのだ。慌ててロッジ内に料理ごと避難させたはいいが、これから吹雪になるらしいという予報に分かりやすく落胆する。経験上、天候関係の中断はタレントの安全が最優先だと知っている。この後は十中八九ホテル送りにされ、撮影再開までひたすら待機だ。
と、いうことは。ユキの出来たてご飯は所謂インサート――食事のみピックアップして撮る――組に回され、インサート用に作ったご飯と、オレ達用のご飯、どちらもADが美味しくいただくことになる。
いや、いいんだけどね? しょうがないことなんだけどね。オレ、楽しみにしすぎて、昼食抜いちゃってんだよね! ご飯食べる前にガチでお腹鳴ったら撮れ高凄いしね!
そして予想通りあっという間に車に乗せられ、即ホテルへ収監。今日都内へ帰る予定だったのもあって、一部屋しか予約が取れなかったらしい。物凄く久々に同室であることに、下がりきっていたテンションが結構簡単に上がった。
更にはツインにもできず、謎にキングサイズのベッド。それにもガンガンテンションが上がっていく。端と端で眠ったら、多分ツインで寝るより距離あるよこれ。
既に夕方を回っている為、明日もう一度撮り直しになることは事前に伝えられていた。部屋に用意された浴衣に着替えて半纏を羽織り、ベッドにダイブする。
ぴろりん、とラビチャに着信。おかりんからだった。
「『撮影は途中までの分と時間帯をあわせるため夕方からになります。ゆっくり休んでくださいね。あまりハメを外さないように』だって」
「ハメを外すって……僕とモモしか居ないのに?」
「ね。ゲストが居るわけでもなし」
で、善戦むなしく惜敗して、今となってはへべれけのべろべろ。ルームサービスの残骸で部屋も凄いことに。
時間の感覚はとっくに死んでしまったので、今が何時かはわからない。飲み始めが19時で、途中確認したら夜中の2時で、それ以降はもう全く。もう飲める酒も殆ど残っていないので、ぽやぽやした頭でショットグラスに入ったウイスキーをちびちび飲むぐらいしかしていなかった。
オレはソファでぐでぐでになっているけれど、ユキはベッドでどろどろになっている。
酒の強さって結局は経験値で決まる。ユキは普段からそこまで大量に飲まないし、飲んだとしてもすぐ寝てしまうのが常だった。そもそもオレの1/10ぐらいしか体力がないので、ここまで付き合ってくれただけ奇跡だろう。ユキも、間違いなく浮かれていたのだ。
普段圧倒的な非現実に身を置くオレ達にとって、こういう、二人っきりの部屋でただただ酒盛りしてどんちゃん騒ぐ方が、よっぽど非現実だから。
ひとりで飲むの、ちょっとさみしーな。でもユキを起こすの、かわいそうだしな。
飲みきれなかったショットグラスを置いて立ち上がる。ベッドの端っこに沈んでいるユキに忍び足で近づいて、しゃがみこんで顔を覗き込んだ。
「わー……」
出会ってからずっとずっと、本当にずっと綺麗なユキは、寝顔もとびきり美しい。ここに収まったら素晴らしいだろう、という場所に全てのパーツが収まっていて、生ける奇跡としか言いようがなかった。泣きぼくろひとつとっても、ユキを構成する大事なパーツだ。
そろりと人差し指を近づけて、泣きぼくろにちょっと触れてみる。それだけで全身が甘く痺れた。普段なら絶対にしないようなことを、している。全身を巡るアルコールのお陰で、正常な判断がいっさい出来ない。したいことをしてしまう。酔っぱらい特有の、免罪符を勝手に発行しちゃうやつ。
危ないから目を開けないでね、と念じつつ、長い長いまつ毛にも触れてみる。ふわりとした感触にいたく感動して、指先がぶるりと震えた。あ、やばい、なんか、興奮してるかもしれない。
それから、つつつと頬に指を滑らせて、今度は唇に触れてみる。指で触るのは初めてで、背筋にぞわぞわと鳥肌が立った。
あ。これちょっと、やばいんじゃないかな。なんか変なスイッチ入ってるかもな。モモちゃん大丈夫かな。いやオレのことなんだけど。
理性のネジがちょっと緩んでいる状態のまま、ちょいちょいと指先を下唇に引っ掛けて、薄い桜色のそこを弄ぶ。アルコールのせいじゃなく心拍数が上がって、悪いことをしている気分だった。
ら。
れろ、と指を舐められて、「ひぎゃあっ」と声があがった。色気もなにもあったもんじゃない。「え、え、え、え、なになになになに?」めちゃくちゃに動揺して、尻もちをついて、舐められた指を覆って、うそうそうそ、と口走った。あ、酔ってる。酔ってるから、全部言っちゃってるなこれ。
「モモ、僕で遊ぶな」
「え、あぇ?」
のそりとベッドから体を起こしたユキは、胡乱げにオレを見下ろす。アルコールによるハイ状態は抜けて、今はもうダウナー期に入っているみたいだった。
オレが何も言えずにユキに見下されたままでいると、「おいで」とだるそうに手招きされる。相変わらずふわっふわの頭で、考えるより先にユキに近づいた。ユキはそのままオレの頭を撫でて「かわいいね」と、ちっともそんなこと思ってませんみたいな声音で言う。封印して久しいヒモ体質が遺憾なく発揮されていて、オレの脳みそはぐちゃぐちゃに撹拌された。
え。ユキがかわいいって言うならかわいいのかな。かわいいよね。
「オレかわいいの?」
「かわいい」
「うれしいなー」
「もっとかわいがってあげるよ。近づいて、舌出して」
「? ……れっ」
こう? と従順な犬みたいに舌を出して見上げると、ユキはちょっと楽しそうに喉でくつくつと笑った。
「かわいい。ちゃんとできて偉いね」
よしよしと撫でてくれるのが嬉しい。にこにこ笑って、あ、いけない、ともう一度舌を出した。ユキは「犬すぎない?」と、とうとう上機嫌に笑った。ダウナー期を無事抜け、今後も夫婦は安泰決定。
「ワンッ」
「あは、あはははっ、やめてモモ。それ、面白すぎる」
「きゃんきゃんっ」
ユキがいよいよ倒れ込んで笑うので、オレも大喜びでベッドに乗り上げ飛びつく、ふんすと鼻をほっぺたにくっつけてじゃれつくと、ユキが両手でオレの頭をつかんで、わしゃわしゃとかき混ぜた。いよいよ犬と飼い主っぽい。超楽しい。そのままカプリと鼻を甘噛みすると、ユキがお返しとばかりに頬に噛み付いてきて、のけぞって笑った。えー、ユキもそれするの? 犬と犬じゃん。
「モモ、キスする?」
「しないよー、したら怒られるもん」
「誰に」
「おかりんに」
「ああ、それもそうね」
「でしょ? だから噛も」
「そうね」
噛も。じゃないし、そうね。じゃないんだよ。
何を考えてるんだよ。
絶対王者Re:valeが聞いて呆れるよ。
お互いの体に無数の噛みあとって、完全に事件でしょうが。
どでかいベッドの上で正座させられて、おかりんにも一時間説教された。とはいえ、史上最悪の二日酔いのせいで、オレもユキも半分ぐらいしか頭に入ってこない。それもまた追加で怒られる。あのねおかりん、オレはもう目一杯反省してね、二度とこんな飲み方しないって誓ったの。だからもう、寝かせて。夕方まで。お願い。
そんでもって、なんにも覚えてないらしいユキには、あとで事の顛末を話してあげなければいけない。
噛むくらいなら、キスすればよかったねって。