上手から舞台袖にハケ、待機していたスタッフとハイタッチを交わす。
お疲れ様でした! アツかったよ最高だった! 明日もよろしくー!
思い思いの言葉を交わし終え、バクステ用のカメラの位置から自分が外れたことを確認した瞬間、怖いぐらいの興奮が蘇って全身を覆い尽くした。
舞台を降りればスイッチが切れる――わけもなく、栓が抜けてバカになった穴からアドレナリンがドバドバと分泌されている。感覚で分かる。
ハアッ、ハアッ、と急激に息が上がって、あーヤベェこれ一回抜いとかないとアイツらと合流出来ねえかも。そう思った瞬間、後ろから首根っこ掴まれるように引っ張られ、真横のトイレにブチ込まれた。
ちょうどいい場所にあったなぁ、とか思ったのは秘密だ。
乱暴してきた犯人が誰かなんて分かってる。俺をこんな風に扱う人間はこの世にただ一人しか居ないからだ。その後百倍優しくしてくるのも。
一番奥の個室に放り投げられるぐらいの雑さで突っ込まれて、反射で文句を言おうと振り返る。
燃えるような瞳がそこにあった。
嫌でも釘付けになる。
「トウマ」
低い低い、這うような声。名前を呼ばれただけなのに「今すぐ抱かせろ」と言われたと理解して、一瞬で脳みそがドロドロになる。互いの目元が赤く染まり、唸るみたいな声が喉から漏れた。
トラの唇が艶かしく動いて、勢いをつけて噛み付きにいく。それはほとんど同時だった。
興奮しすぎて余裕がないせいで、うまく唇がひっつかなくてもどかしい。
すぐに痺れを切らしたトラが俺の後頭部を固定して「動くなよ」と釘を刺してから舌を入れてくる。
熱い。熱い熱い熱い。ヤバい。頭バカんなる。
あうぅ、みたいな声が漏れて、自分のあられもない声にすら反応してしまった。悶えると、喜ばれることを知ってる。相乗効果でどんどん興奮していった。
最高のライブ。最高のパフォーマンス。頭バグんないでいられる方が不思議。
トラの舌は嬲るみたいに俺の口の中をぐちゃぐちゃに犯して、それが泣くほど気持ちよかった。舌先は器用に上顎や頬をくすぐって、それから犬歯を遊びはじめる。
おまえはここを舐められるのが好き。
というのはトラが教えてくれたことで、だからそこをしつこく舐められるともう駄目だった。
やっべぇめちゃくちゃ勃ってる早く抜きたい抜いて欲しい触りたい、トラのが欲しい、挿れるのは無理? 無理だよなじゃあやっぱ今すぐ抜いて、じゃないと楽屋戻れねえよ絶対。
「と、トラ、トラ……っ、もう、」
「……ははッ、ひっでぇ顔」
「なんでもいいからっ……」
「よくない。もっと見せて」
顎を掴まれて、至近距離で舐るように見つめられる。余裕がないのはお互い様のはずなのに、経験の差はこういうところで出るものだ。
見せろよ、じゃなくて、見せて、なあたり。完全に分かってやってる。俺がそういう子供っぽい言葉使いに弱いところとか。
俺がお願いをする時、トラが言う通りにしてくれることなんて殆どない。触って欲しい場所に触ってくれないし、焦らすようにただ見つめるだけだったり。今もそうだ。ギラギラ欲まみれの目で見つめられて、それだけじゃ足りないって言ってんのに何もしてくれない。
我慢の鬼か。
見てる場合か早く触れよバカ野郎!
膝がぶるぶる震えて、一人で立ってられずにトラの背中に腕を回す。首を強く横に振り、掴まれていた顎を自由にしてからもう一度キスをした。
べろりと唇を舐めて、薄く開かれたそこに舌を挿し込む。トラの舌は俺にされるがままで、それも余裕っぽくてムカつく。でも絡めたらちゃんと絡め返してくれるので、すぐに気持ちよくなって口の周りがぐちゃぐちゃになるまで必死で吸い続けた。
一瞬唇を離した瞬間に、はっはっ、と息継ぎをする。あわれっぽい犬。自分でもそう思う。
こんな風にしたのは飼い主だ。責任取れよと睨みつけると、トラは心底満足げに目を細めた。
「よくここまで育ったもんで」
「う、るせぇ〜〜〜〜……」
「誰のおかげ?」
「トラのせい!」
「ん、100点」
そういやトラって俺より年上なんだよな。上から目線すら死ぬほど様になってて今ばっかりは流石にムカつく。
なのに一番触ってほしかったところを膝で刺激されて「ひぅっ」それだけで有耶無耶になった。
思わず自分の手で口を塞ぐと「誰も聞いちゃいないだろ」と腕を取られる。
んなワケねーだろなんならいつ入ってこられてもおかしくないっつーの! と言えたらよかったが、残念ながら熱に浮かされっぱなしの俺の頭はそこまでちゃんと機能していない。
ほんとに? って顔で見上げて、頷かれたので従った。
衣装をダメにするなんてあり得ないから、事故らない程度にずり下げてボクサーを晒す。ライブTは明日の分もあるからもういい。いいわけない。いやでもいい、いいよ、なんでもいいから早く触って。二人で戻りが遅くなったら怪しいし、別々に戻らなきゃおかしいし。
前戯なんて全然いらないぐらいお互いのチンコはバッキバキで、布越しに触るのも鬱陶しくて、ゴム部分に指を引っ掛けすぐに取り出した。
トラのはいつ見ても嘘みたいにデカイ。ゴクリと喉が鳴って、舐めたい衝動を抑える。流石にそれをしている時間はない。
「帰ったらゆっくりな」
「ばっ、……きょ、今日は無理だろ!」
「じゃあ明日?」
「う……あ……」
「決まり」
こういう時。めちゃくちゃ嬉しそうな顔するの、一番ズリィ。可愛い顔で笑ってんな、すっごい好きになっちまうだろーが! って叫びたくなる。
とっくに好きだけど。
俺がごちゃごちゃ考えているうちに、トラが「早く」と言って俺のを掴んだ。デカい手に握られて「ひっ、んっ」と上ずった声が漏れる。声、声まじで大丈夫かこれ。
ああ、でも、声出すの、きもちー……。
ドロドロのベタベタになった俺の脳みそを更にかき回すように、トラが自分のと俺のをくっつけて扱き始める。
「あっ、んんっ、はっ」
「っ、はっ、あ……」
たまらなくなって、トラの手の上に自分の手を重ねて、一緒に扱いた。ぐちゅぐちゅとひどい音が個室に響き渡り、耳の奥まで犯される。
浴びるほどの興奮に、絶頂はすぐに迫ってきた。
ああ、もったいない、もっともっとこうしてたい、でもイッたらもっと気持ちい、なあ、そうだよな、トラ。
俺、キスしてイキたい。
うわずった声ばかり出るせいで口に出来なかった言葉を、視線に込める。トラは賢い飼い主なので、当たり前みたいにキスしてくれた。
「ふぅっ、ん、………〜〜〜〜〜あ、あッ……」
「……ッ、は……、く……」
二人の手のひらの中で噴出したそれは、ぼたぼたと便器の中に落ちていく。手がデカいのもあって服に飛び散ることはなく、トイレットペーパーで軽く拭き取って一緒に流した。
スッキリしたは、したけど。まだ全然足りない。思わず自分の犬歯を舐めると、「それ」とトラが釘を刺すみたく言った。
「他のヤツの前で絶対やるなよ」
「……へ? なんで?」
「エロいからに決まってるだろ……?」
あまりに当たり前のように言われ、一瞬空気が止まる。
「ブハッ! いやいやいや、ないわー!」
「なくない」
「トラにしかそう見えてねーよ。っし、スッキリしたし出ようぜー!」
「おまえな……」
十秒前のケモノっぽい空気が完全に消え、いつも通りの二人に戻る。
これなら怪しまれることもないだろう。実際、お偉いさんに声をかけられてすぐに楽屋に戻れないようなことはよくある話だ。
「じゃ俺から先出るから、トラはちょっと待機な」
「……分かった」
渋々頷いたトラは、やっぱり子供みたいでかわいい。ギャップ萌えってこういうこと言うのかな、なんて思いつつ、早く手ェ洗てぇなと個室の扉をガチャリと開けた。
「あ、終わりました?」
洗面台の前に、宇都木さんが居た。
「………………………………………………………
………………………………………………………」
絶句。
――以降、公共の場でサカることは当然禁止され、毎回別室を用意されることになった。
……使うわけなかった。
*
「良かれと思って用意したんだけどなあ」
「オゲェ……。士郎、おまえ本当に最悪」
「えー、了くんに言われたらおしまいじゃない?」