僕は口下手で、それはよく万からも言われていたことだった。『お前に歌を作る才能があって良かった』とも。それはいつも軽口のように叩かれ、その実、本気で言われていることでもあった。
そして僕も、思う。音楽があって良かった。歌があって良かった。作り上げた曲を、歌うことが出来て良かった。
モモが歌えなくなってから、いくらかの時間が経った。内科、外科、心療内科、カウンセリングも受けさせた。
けれどどこにも異常は見当たらず――結果を聞いた凛太郎が、眉を潜めて言った。「プロ相手でも駄目じゃな」……カウンセラーに真実を話していないのだろうと、凛太郎は踏んでいる。そしておかりんも、口にはせずとも、同じ思いだろう。
僕は、分からなかった。モモ自身が、何を隠しているつもりも、嘘をついているつもりもないことは、ここに居る全員が分かっていることだ。
モモのことを理解したい。疑いたくはない。モモが言ってくれることが全てで、それが真実だと、信じたい。僕がモモに示せる誠実は、情けないことに、それだけだった。
モモを信じる。僕が信じたいから、信じる。
だから、僕は僕なりに、君に想いを伝えようと思う。僕が出来ることといえば、言葉で伝える代わりに、歌を作る。それだけだから。
曲を奏で、歌詞を書き、歌い上げる。出来るだけ丁寧に、優しく、一音一音、そこに置いていくように。
君が見つけて、拾い上げられるように。
難しい言葉は使わない。格好をつけた表現も、モモは好きだけど、今回はやめようと思う。僕が君に想っていること、そのままを、それだけを、伝えられたら、それでいいから。
五線譜に、コードを書き込んでいく。ここはG、Gマイナー、ああ、このコード進行で別の曲も出来そうだな。それは、皆に聴いてもらえるような、前向きで明るい歌にしよう。
だからこの曲は、君以外が聴くことのない、君の為だけの歌にさせて欲しい。歌われない歌は可哀想だって、僕の言葉にモモは何度も頷いてくれたでしょう。
いつか必ず、モモの目の前で歌わせてね。
照れて、俯きたくなっても、最後の一音まで、ちゃんと歌ってみせるから。