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 僕が「行かないで」と腕を掴んだから、神様のお気に入りであった君は天国ではなくここにいる。地獄とまでは言わないが、天国や楽園からは程遠い場所に。
 そう素直に伝えれば、君は「そんなわけないじゃん」と困ったように眉を下げて笑った。「オレがユキをこの場所に引き留めたんだよ。そんで、神様はユキね? 分かった?」少し怒ってすらいるような声色に、今度は僕が眉を下げる番だった。僕は笑わない。ちっとも笑えない。
 君は僕の言うことをまるで聞かないし、理解も納得もしない。その上、知ったような口で「ユキはオレが居なくたって音楽やってたよ。神様だもん」なんてのたまうのだからたまらなかった。
 元自殺志願者に何を。LANケーブルはインターネットに接続する以外にも使い道があることを知らないのか? とは、言わないでおく。君が見る悪夢の質が上がってしまうだろうから。
 そう。これだけの時を経ても、君はまだ魘されていた。
 晴れ渡る空から降り注ぐ陽の光に照らされても。
 寄せては返す波の音が心地よく耳を撫でても。
 額に汗をかき、眉間に皺を寄せ、喉を引き攣らせて、か細く呻いている。
 そんな君を揺り起こし目覚めさせるのが僕の役目でよかった。
「……ユキ、もしかして気づいてた?」
「何が?」
「オレが熊と闘ってなかったこと」
「ああ。まあ、そうね。あの時とは比べ物にならないぐらい辛そうだったし。熊の時は、大健闘してたからさ」
「やるじゃんオレ」
「モモはいつだってやる男だよ」
 だから僕に引き留められてしまったのだ。君が神様に選ばれるような子だから。魔法使いだから。ヒーローだから。
 故に、君が悪い夢を見ることを、君のせいにして欲しくない。全部まるごとは飲み込めないならせめて、片棒を担がせて。半分ちょうだい。君と僕が同じ人間であることをちゃんと知って、認めて欲しい。
 だって神様は魘されたりしないだろう。
 神様は、君をこんな場所に引き留めたりしないだろう。
 目が醒めたら、悪夢だろうが「同じ夢を見れたね」って笑い合えるのが当面の僕の願い。人間くさいちょっとした祈り。
 苦しくたって辛くたって、傍にいさせて。そういう、祈り。