恋とはどんなものかしら。
父の喫茶店で、時折戯れに流されたオペラの一節。そんなこと、考えてもきりがないと気づいてからは、その歌が好きではなくなった。
抱き心地だけはいい体に背を向けて、埋められなかった孤独を抱きしめて眠る。そんな日々の連続。
恋とは。無遠慮にぶつけられるだけのもの。決して受け取れないもの。その程度のもの。
――そうやって切り捨ててきたツケが今、盛大に回ってきている。
僕は今、ある一人の人間に、大真面目に恋をしていた。
中学生でもびっくりのピュアさで、『好きだ』と実感する毎日だ。どれぐらいピュアかというと、自転車の乗り方を覚えたら二人乗りが出来るかなとか、そんなことまで考える始末。一年前の僕が聞いたら、腹を抱えて爆笑し、そのまま窒息死するだろう。いや、そんな元気、一年前はなかったけど。別の意味で死んでたかもしれないんだけど。
……これはあの子には聞かせられない、ブラックジョーク。まあ、ジョークでもないか。
あの子——モモくんは、今だ僕に恐縮するくせ、とんでもない寝相の持ち主だった。布団を並べて眠る度、始めこそ緊張して寝つけずにいるのに、一度眠ってしまえば暴君と化す。僕の腰を軽く蹴り出すところから始まり(犬猫がたまにやるやつに似ている)、腹に脚が乗っかって、ひどいときには僕の掛布団を奪っていった。その度起き上がり、モモくんをよいしょよいしょと自分の布団の上にまで引っ張って、同じ掛け布団の中で眠るのだ。
モモくんのせいで冷えた体はモモくんにあたためてもらうのが道理だ。そんな大義名分の元、骨ばった背中に腕を回す。
心臓がうるさい。もちろん僕の音だ。自分が自分ではなくなってしまったかのような感覚を覚える。
抱き心地がいいかと言われると、痩せてしまった背中は折れそうで心もとない。でも、だからこそ、抱きしめ甲斐はあるのだった。
ふわふわの髪の毛に顔をうずめる。優しいにおいがする。心が落ち着いて、君がいてくれて良かったと実感する。
恋とは。
未だ分からない。ポケットティッシュのようなもの?
でも君への想いが恋には違いない。
あるいは、もしかすると、それ以上の何か。
それを人は、愛と呼ぶのかもしれない。