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 恋とはどんなものかしら。
 有名なオペラの一節。これを初めて聞いたのはいつだったか。当時は、どんなも何も、恋は恋でしょ、なんて深く考えもしなかった。そこはまあ、ガキンチョなので仕方ない。確か、高校で初めての彼女が出来て浮かれていた時期。
 そしてあっという間に五年が経った。もうガキとは言えない年だ。そしてオレはというと、あの頃とは比べ物にならないほど真剣に考えていた。恋とは。そればかりを。
 天井のシミを数えながら考える。マルチタスクが苦手なオレは、結局シミの数は三つまでしか数えられなかった。
 諦めて、ごろりと横向きに寝返りを打つ。
 並んだせんべい布団の上、すぐ隣でボロ布を着せられた神様が眠っている。名もない古着屋の閉店セールで買った底値のTシャツは、正しくボロ布だ。5着で100円だったから、二人で飛びついた。
 お揃いだねって笑った顔が忘れられなくて、オレは恐ろしいことに、神様――ユキさんがボロ布を着たのを見計らって、同じ柄を選んで着た。
 もう一度、お揃いだねって言って欲しくて。
 結局、オレが何も言わなかったから、ユキさんはそのまま布団に入って寝てしまった。オレは肩を落として、隣の布団に潜り込み、今がある。
 従来会話は得意なはずが、ユキさんを前にすると体温が上がって、呼吸は浅くなり、心臓が高鳴って、舌が回らず、汗が噴き出る。最初は風邪を疑ったけど、短期間でぶり返しすぎたことで、正体を掴んだ。
 なるほど恋であるらしいと。
 となると、だ。困ったことに、オレが今まで経験してきた「恋」らしき甘酸っぱいそれらは、恋ではなかった可能性がある。ユキさんとの出会いで、オレは過去まで塗り替えられてしまったのだ。
 恋とは。コントロール不能の魔物。手負いの獣。腹を空かせたヒル。ジェラスの壺。欲求不満の権化。独占欲の象徴。綺麗じゃない何か。
 折笠千斗を好きな春原百瀬。
 ――だってさ、寝顔を盗み見るようなこと、前のオレならしなかったよ。
 あなたのせいで変わってしまった。
 あなたのおかげで変わることが出来た。
 そのどちらの感情も持ち合わせている。
 多分それが恋。
 一生かなわない、オレなりの恋のかたち。