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 ユキさんの長く美しい指がオレの喉仏を静かに撫でて、離れていった。オレといえば、急所を撃たれたみたく一歩も動けなくなってしまって、呆然と立ち尽くすばかりだ。
 その時。
 ああ、オレ、ユキさんのために死ねるなら本望だ。
 って、心底思った。

「モモの、バカ……」
「あはは、ごめん、ごめんて!」
「謝って済むようなことじゃない。この傷は一生消えないから、モモは一生僕の機嫌を取り続けるんだよ」
 同じベッドの中で眠るユキが、そう言ってオレを抱きしめた。その声色には怒りはなく、ホッと胸を撫で下ろした。
 抱き締められたから、抱き締め返す。こんなことでも立派なご機嫌取りになるらしく、目を瞑ってぎゅうぎゅう腕に力を込めるユキは、どこか楽しげだ。
 全国ツアーのオーラスを終えてすぐ、今日ばかりは二人きりで打ち上げ。明日は関係者も呼んでもっと盛大に行う予定だ。東京凱旋単独7DAYS。大きな怪我もなく終わらせられた安堵感と、7日連続昼夜公演を走り抜けた高揚感に包まれて、浴びるように飲んだ酒は格別だった。
 生きてて良かったって思う。Re:valeの百として生きることを選んで良かったって。ユキは何度も頷いてくれた。
「でも、ユキのためなら死ねるけどね」
 口を滑らせたのは、気分が最高潮に達した時だった。突然の物騒な告白に、ユキは途端に機嫌を損ねて、ついさっきまで宥めすかしていたところだ。
 ユキの腕からちっとも力が抜けないのは、そういうことなんだと思う。オレが言ったことを、一番望んでいないのがユキだ。体温がうつる。まどろみの中で目を閉じる。

『モモくん、喉仏、あんまり出てないね』
 そう言って、ひと撫でされた。たったそれだけで、身体の仕組みがバグって、心臓を、素手で鷲掴みにされたような衝撃があった。
 苛烈なまでのユキさんへの想いが、破裂して飛び散って、この人になら、命を捧げたって構わないって、思った。
 オレの神様。でももう、神様ではいてくれないんだって。
 オレの命は、オレのものらしい。それがなんだか寂しくて、回した腕に力を込める。
 せめて半分、あなたにあげたい。
 オレのエゴは死ぬほど重いよ。