モモの機嫌が悪いと、僕は結構嬉しい。
勿論、喧嘩じゃない時に限る。あと、機嫌が悪い理由が、僕であることも必須だ。
今日、モモがやたらと不機嫌なのは、僕の熱愛報道が原因だった。散々繰り返されてきた捏造だ。それ自体をモモが信じる筈もないから、今回もしてやられましたね。そうね。記事に対する言及はそれで終わり。いつものように月曜日から金曜日までかけて消費されて、翌週にはまた別の恋愛報道で盛り上がるだけ――の筈だった。だったのだ。
それはつい昨日のことだ。
わざわざマンション前で張っていたパパラッチ兼カメラマンが、帰りがけの僕を捕まえて言った。
「今回のことで、謝りたい人はいますか?」
――いや、馬鹿か? と素直に思った。何、その質問。なんか、凄く若く見えるし、新人かな。
よく見るとカメラを持つ手は震えているし、僕が唖然としている姿を見て、顔を真っ青にしている。自分でも、意味不明の質問であることに気づいたのだろう。
まあ、確かに。下手したら僕を犯罪者扱いしているような質問の仕方だ。それに、こうもハズしてしまった質問は、お蔵入りまっしぐらだろう。
で、僕はというと、助けてあげよう。と、思った。
週刊誌には散々悩まされてきたし、恨みも当然あるが、売れ始めの頃から取り上げ続けてくれている恩も、なくはない。どこの出版社かは知らないが、それは一度きりの恩返しのつもりだった。逆に言うと、二度はない。
呆れて開きっぱなしだった口を閉じて、神妙な、いや鎮痛な面持ちを作る。――後にモモから『演技力の無駄遣いをするな』と怒られるレベルの――迫真の演技でもって、おもむろに言った。
「モモに、謝りたいかな。……モモ、本当に、ごめん」
かくして週の頭、月曜日。本日、快晴。
僕の熱愛相手は、モモへと塗り替わり、朝からニュース番組は大いに盛り上がっている。
モモはもう、ずっと怒っている。業界全体の「ですよね」ムードが、とにかく恥ずかしくて、許せないらしい。
勿論、その原因を作った僕に、一番怒っている。朝から目も合わせてくれないし、見えない牙が剥き出しだ。
「ほんっとに信じられない。オレの気も知らないで!」
「熱烈な告白、有難う。僕もモモが大好きだよ」
途端に真っ赤になってしまう。不機嫌な君は、正直者だ。