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「オレには、ユキのさながら芸術品のような、陶器のような、真珠のような手指を守る使命がある!」
 と、豪語して憚らないモモは、いつからか僕の手にハンドクリームを塗り込むのが趣味になった。僕も僕で、マッサージのようで気持ちがいいので、好きにさせている。
 スタジオ撮影からの外ロケは、深夜まで及んだ。ロケバスの中、出番まで待機中、わざわざ僕の隣までやってきたモモは「お手を拝借」と真剣そのものみたいな声を出した。
 第一声が、それ? と笑いつつ、慣れた手付きでまずは左手から差し出す。一月も中旬。当たり前に、冬は寒い。ロケバスの中は適温に保たれていて、僕は、ひどく眠い。
 モモも慣れた様子で、まずは手の甲にゆっくり塗り込んでいく。両の親指を骨にそって滑らせ、最後は外側に流す動きは、お世辞じゃなく気持ちがよかった。モモ、マッサージ師の資格、取れるんじゃない。僕専属で、就職してみるの、どう? 眠いし、その後発生するであろうやり取りが面倒なので、口にはしない。
「今日はね〜ゼラニウムの香りにしてみました!」
「うん、いい匂い」
「ユキがそれ以外の感想言ったこと、聞いたことないですぞ……」
「そりゃまあ、肉の匂いとかだったら、文句言うけど」
 こだわりがないので、どうでもいいといえばどうでもいい。その代わりにモモがこだわり抜いているのを知っているから、安心して任せられる。撮影前は無香料、こうして僕が眠りかけている時は、アロマの効果がうんたらかんたら、ちゃんと使い分けてくれているのだ。
「モモの手、あったかいな……」
「手が冷たくなったことないもん。体温高いからかな?」
「うん、知ってる。昔っからそうだった」
 昔は、暖房のついていない台所で、節約の為に何もかもを水で処理していた。指先が凍りつきそうな時、モモで暖を取ることが癖になっていたのを思い出す。
 というか。そっか。そういうことか。
「触りたい? 触られたい? 僕はどっちでも嬉しいけど」
「……うん? なんの話かにゃ?」
 モモのとぼけるような声で、確信する。手指を守る使命があると言いながら、僕に触れる画策をしていたわけか。
 目を開くと、モモの耳が赤く染まっている。
 いじらしすぎて、くらっときた。
 思わず、恋人がするように指を絡ませる。このままそっと引き寄せて、指先にキスでもしてしまおうかな。