ユキさんの指先が真っ赤になっているのが、あまりに痛々しくて見ていられない。でも、心配すぎて見守ってしまう。台所に立つユキさんは、包丁を握りながら小刻みに震えていて、もう止めてくださいって何度言っても聞いてくれない。
君の為にせめて、料理ぐらいはさせてくれ。
そんなこと言われたら、オレももう、何も言えなくて、じゃあ、せめて見守らせてください。と言ったのがさっきだ。見守る、とか何様のつもりだよ、と言った瞬間慌てて訂正しようとしたら、いいね、見守ってて。と喜んでくれたので、まあ、結果オーライだ。
でも、この見守るっていうのが、かなり精神的にきつい。ユキさんが野菜を洗うたびに、指先が真っ赤に染まって、早くお湯であたためて欲しいと思うのに、気にせずそのまま皮を剥き始めたりするから、卒倒しそうになる。
「ユキさん、あっためてください。あかぎれになっちゃいます!」
「これぐらいじゃならないよ。というか、別になってもいい」
「駄目です! 絶対駄目!」
と、どれだけ言っても全然言うことを聞いてくれない。確かに、見守ることは許容してくれたが、口を出されたらちゃんと聞く、とは一言も言われていなかった。これじゃ、本当にただ見守っているだけの役立たずだ。どうしようどうしようと頭をぐるぐるさせて、ハッと思い立ち、洗面台に走る。そして、古びたドライヤーを台所まで持ってきた。中古ショップで購入した、三百円のドライヤー。かろうじて、乾かすことだけは出来る化石。
「ユキさん! これ、これであっためてください」
「気持ちは嬉しいんだけど、それだと、むしろ乾燥しすぎない? あかぎれまっしぐらだよ」
「ハッ……! そ、そっか……そうかあ……」
超がつくほどの名案だと思ったのに、オレはいっつも詰めが甘い。がっくりと肩を落として、洗面所に戻ろうとすると「待って」と肩を掴まれた。
驚いて振り返ると、手元からドライヤーを奪われ、シンクに置かれる。
「僕は、これがいい」
ユキさんが、オレの両手を、包み込むようにぎゅっと握った。ユキさんはオレよりずっと細いのに、手は一回りは大きくて、音楽をやっているひとの手だ、と思う。
「……あれ。どんどんあったかくなってきた」
「……ユキさんのせいです……」