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 出来る限り足手まといにならないように。それがオレの信条であり、矜持だった。あるいは誓い。だから、要らないものは出来るだけ捨てて、身軽でいようと思った。
 バンさんが戻ってきたら、その日にでもお別れ出来るように。だから、二人の部屋にはあまり多く物を置かないようにしていた。そもそも整理整頓が苦手で、物が増えるとすぐ散らかしてしまうタイプだ。少ない方が好都合ですらあった。
 片付けすら出来ない甘ったれた子供だと、バレたくない。そういった、くだらない見栄もある。馬鹿げていると思われるかもしれないけれど――オレは出来るだけ「いい子」でありたかったのだ。
 そもそも、ユキさんを無理やり説得して、辞めようとしていた音楽を、Re:valeを続けてくれと懇願した立場だ。ほんの少しでも重荷になったら、オレは自分を許せないだろう。だから、努力は怠らない。掃除も、洗濯も進んでする。料理だけは、どうしても上手くならなくて、どこかで時間を作って、料理教室に通うのも有りかもしれないと考えている。
 ユキさんは朝日に弱く、遮光性の低いカーテンから注ぐ光から逃げるように身体を丸めて眠っている。新聞配達を終えて帰ってくると、いつもそうやって眠っていて、オレはそれがとても孤独な眠りに思えた。目が覚めるといつもオレにかかっているユキさん用の掛け布団は、オレが目覚めると同時にユキさんにかぶせている。いいって言ってるのに、ユキさんは全然言うことを聞いてくれない。オレの方がよっぽど体温が高く、風邪を引いてもこじらせない自信がある。ユキさんはオレよりずっと痩せていて、寒さも堪えるだろう。
 よし、と頷く。次に出かける時には、中古でもいいから格安の掛け布団を買おう。今日は日雇い工事現場のバイトが入っていて、現金支給だ。ユキさんのコートは、そのお金でクリーニングに持っていこう。ユキさんの身につけるものが、くたびれていてはいけない。オレの食費等々を切り詰めれば、布団もクリーニングも問題はない。来週の給料日までの日数を指折り数えつつ、壁にかかっていたコートを手に取る。ふと、嗅ぎ慣れない香りがした。
 甘ったるい、女の人の匂いだった。
 喉がきゅっと締まって、心臓が強く脈打つ。コートを掴む手に思わず力が入って、すぐに緩めた。
 動揺するな。狼狽えるな。
 オレは、いい子で、いるんだろ。