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 ボロ部屋の真ん中。薄っぺらな布団をきつく抱きしめるようにして眠る姿は、孤独そのもののように映った。自分用の掛け布団を、モモくんにそっとかぶせる。
 うっすら浮かび上がる頬骨に、目を眇めた。そもそも食が細い自分と、倍近い筋肉で稼働するモモくんとでは、カロリーの消費量が違いすぎるのだ。今の生活では、生きてるだけで、痩せてしまう。それにこの寒さだ。代謝は嫌でも上がり、蓄えた脂肪はどんどん燃え尽きてしまう。
 一歩引いて、ゆっくりと立ち上がった。いい加減クリーニングに出さねばならない、すすけたロングコートを、出来るだけ静かに脱ぐ。衣擦れの音さえも、モモくんは反応して起きてしまうのだ。毎日深夜までバイトをして、歌やダンスのレッスンに通い、時折差し込まれるアイドルとしての仕事をこなしながら、ワークショップにも通っている。明らかにオーバーワークの彼が、泥のように眠ることすら出来ないのだ。それは外へ仕事に行く僕を案じているから。歌が出来ない僕を慰めようとしてくれるから。
 せめてこんこんと眠りについてくれさえすれば、僕の恐怖心はいくらか、治まるのに。なんて考えている時点で、僕は相変わらず、どうしようもない。
 軽くシャワーを浴びて、今日はすぐに寝よう。モモくんに紹介してもらったバイトは、恐らく今日のゴタゴタでクビだ。こんな時間まで同僚の女性に拘束され、家を知られるわけにいかないと、結果振り切れずにずっと付き合わされていた。無駄にバーで何杯も飲まされたカクテルの味は、泥水のようだった。
 昔ほど冷徹に切り捨ても出来ず、中途半端に優しくするせいで、相手もよほど期待する。相手は、何も悪くない。全部、僕が悪い。
 無為に流し込まれたカクテルのお金で、モモくんに美味しいものを食べさせてあげたかった。僕より先に生かされるべきはモモくんだ。
 身体に染みついた香水の匂いをかき消すように、限界まで熱くしたシャワーで全身を流す。
 このことは、モモくんには知られたくなかった。後ろめたさに襲われて、消えたくなる。けれど、消えたところで何の役にも立たないのなら、せめて生きて、君に喜んでもらえる歌を作りたい。「まだ一音も掴めていないでよく言う」と、笑われたら壊れてしまうような、脆い矜持だ。
 けど、君は笑わないで居てくれると、知っている。
 だったら僕は、布団を抱きしめる君の腕を解いて、その隙間に入り込もう。せめて孤独には、させないように。