雨の日、全然好きじゃない。普段からあっちこっちへ跳ねる髪の毛が更に暴れてセットに時間がかかるし、ペタッとした空気も、どんよりした空模様も好きじゃない。
予定していたバーベキューが流れるのなんて、最悪だ。
雨。降らなきゃ降らないで困ることは分かってるけど、オレのテンションを上げてくれる要素は、正直一個もなかった。雷ではしゃぐのも、とっくの昔に卒業したし。
なのに、ユキは雨が好きだと言う。ざあざあと降り注ぐ音が、湿る弦が、潤う喉が。うっすらとした肌寒さが、葉の上でうずくまる水滴が、好きだと言う。
それもそのはず。ユキにとっては何もかもが曲の、歌詞の、ヒントになる。雨の日はきっと、晴れ間よりも一層、インスピレーションが湧くのだろう。
加えて、例え土砂降りの雨に降られたとしても、ユキの髪の毛が跳ねることなんてないし、アウトドアな予定も端から入れてない。普段となんら変わりないオフを過ごせるのなら、雨を嫌ったり、恨んだりする必要はないのだ。
「いい生き方でしょう」
「ユキにとってはね。オレは外に出れなきゃ死んじゃう」
「モモは生き急ぎすぎじゃない? 僕みたく、雨の日にホットコーヒー飲みながらギター鳴らす、みたいな趣味、ひとつぐらい作ればいいのに」
「……そんなユキをずっと見つめる、って趣味にしようかなと、今思いつきました。どう?」
「いいね。おはようからおやすみまで、僕のすべてを見つめたいんでしょ。今日をその第一歩にすればいい」
言ったな。言ったね、そんなこと。広いお風呂で。
「でもさ、晴れた空の下でだるそうに歩くユキは、イケメンでキュートだよ。そんなユキも、見つめたいな……」
「却下。僕は毎日雨だっていいぐらいだ」
絶対やだよそんなの、と思わず猫目になる。カフェオレがひたひたに入ったマグカップを差し出され、口をとがらせつつ受け取った。
なるほど、これを飲みつつユキを見つめろと。ごうごうと、外は物凄い雨風に晒されている。打って変わってこの部屋では、嘘みたいに優雅な時間が流れていた。
はあ。とユキが深刻さのかけらもないため息を吐く。
「モモがこうして僕の傍にいるのは、今日が台風だからだしね。……やっぱり、毎日雨がいいよ」
オレを傍に置きたすぎて、地球のことすらそっちのけだ。
愛されてる実感。最高の気分。ろくでもなくてごめんね。
これからも、雨の日は必ず、ユキの家に来ようと思った。