「ユキさんが電車に乗ると、どうなるんですか?」
と、モモくんに訊かれて、意味が分からなかった。どうもこうも、どうにもならない。「それってどういう意味?」と怪訝を隠さずに言うと、モモくんは「え?」と逆に不思議そうにした。いやそれ、こっちのセリフだよ。
「十戒みたいになるのかなあ、とか」
「じ……? いや? 突然どうしたの」
「一緒に乗ったこと、全然ないなあって思って……」
畳の上に寝転んでいたモモは、よいしょと体を起こす。古着屋で一着五十円で打っていたXXLサイズのスウェットはだるだるで、肩が落ちるのが気になった。いそいそと襟を直してやると、モモくんはにゃははと八重歯を見せ「気にしないでください」と笑う。笑い事じゃない。風邪をひいたらどうするの。自慢じゃないが、僕はうまく看病も出来ないのだ。それに君、よくお腹を出して寝るし。
「ユキさんみたいな人が電車に居たら、場違いすぎちゃうから……。髪の毛とか抜かれませんでしたか?」
「怖っ。なにそれ。……別に、何も起こらないよ」
「それ、もしかして周りに人が寄り付かないとか……?」
「……」
思い返してみれば、どれだけ混んでいても僕の両隣に人が座ることは稀だった。女性は特に。微妙に思い当たってしまって、僕はなんとも言えない顔をした。
「今、モモくんのせいで気づかなくていいことに気づいた」
「え!? お、オレのせいでですか!? すみません……!」
ずりずり。またしてもモモくんのスウェットの肩が落ちて、鎖骨が丸見えになる。最近かなり骨っぽくなってしまったそこを見たくなくて、僕はまたいそいそと直した。モモくんは「気にしないでください」と今度は恐縮しているけれど、むしろ大いに気にして欲しい。
「僕の着てるスウェットと交換しよう。肩、気になる」
「ユキさんの着るなんて恐れ多すぎて絶対無理ですよ!!」
「僕のだって五十円だよ」
「金額じゃないんです! ユキさんが着てる服ってことに価値があるんです!」
その価値、僕には死んでも分からないだろうな。あーもう、また、ずりずりさせて。困った子だな本当に。
ため息を吐きつつ、じゃあ、と続けた。
「僕と一緒に電車に乗って、部屋着買いに行こう」
僕の髪の毛が抜かれないように、モモくんが助けて。
そう言って、やっとモモくんは断れなくなる。
こんなお願いひとつ聞いてもらうのも、一苦労だ。