1000-012

「ただいまー……っと」
 家に帰っても誰も居ないんでした。
 刷り込みって凄い。体に染み付いた習慣は、一人暮らしを始めてから二ヶ月を経過しても尚、全く正されることはなかった。
 ……正す。正すってなんだろな。まあでも、真っ暗闇に声かけ続けるのは、ちょっと、健全じゃないしね。
 引っ越してから三日で荒れつつあった部屋はそのまま、一ヶ月、二ヶ月と放置されて、今となっては限りなくゴミ屋敷に近い。とはいえ、ユキが居ないのに掃除をする気にもなれず。靴下を脱ぎ散らかしながら、リビングのソファにどさりと腰を下ろした。我ながら、酒臭い。
 適当にテレビをつけて、ザッピングする。アニメと、通販番組と、お世話になってる先輩がMCを務める、深夜番組。そこでリモコンを置いて、流し見を始めた。テレビの横にも洗濯物が転がってて、ぼちぼちまとめなきゃな、とぼんやり思った。大体週に一回、まとめてクリーニングが定番になっている。
 それを知ったら、ユキは怒るかな。無駄遣いするなって――いや、もう、関係ないんだけどね。共用財布もなくなった。
 そもそも、春原百瀬は掃除が苦手だった。
 Re:valeに心酔した時だって、ポスターを貼るための壁の確保と、グッズやCDを飾るための場所の確保をした以外は、どこもかしこもぐちゃぐちゃだったし。
 掃除、単純に何から手をつければいいか分からないから、好きじゃない。ユキが嫌がるから、やってただけ。嫌がるユキが居ないなら、やる必要、本当にないよ。
 テレビの横、ソファの腕、テーブルの下、色んなところに色んなものが散乱して、全部がオレの抜け殻で、死骸みたいだった。
 一人って、楽だ。楽で、寂しくて、虚しい。
 ユキは、引っ越し先でだって同棲してもいいと言っていた。せめてもっと近くてもいいんじゃない、とも。
 勿論、全部断った。合鍵だけはお互いに持たせあって、それが限界の妥協点だったように思う。
 ユキ、この合鍵、多分使わないよ。だってオレ、あと一年でユキの隣から居なくなるもん。
 ユキに選んで貰えればいいなと思いながら、絶対にあり得ないことも分かってるし。
 何体も転がった死骸を見る。オレは生まれ変わるたび醜くなって、これ以上ないぐらい汚い存在であり続けるのだ。