1000-011

「ユキ! 今日は銭湯DAYだよ! 起きて!」
「…………いってらっしゃい」
「はいダメです。昨日ちゃんと行くって約束しました!」
 そうだっけ? ……そうだったな。
 曲の締め切りを限界まで延ばしてもらう代わりに、モモがその身を犠牲にして恐ろしい数の接待を引き受けてくれたのが先月。見事、通常では考えられないレベルまで延ばされた締切日の更にその先のデッドオブデッド日に(かろうじて、なんとか、ギリギリ、いや実はちょっとアウトだったけれど)提出出来たのが昨日。曲のアップロードから送信まではモモがしてくれて、その最中に「明日はちゃんとお風呂入ろう。銭湯で!」と言っていたのだ。それに、うつろに「わかった」とだけ言ったのまで、悲しいかな記憶している。
 恐らく声をかけられるまで一ミリも動かなかっただろう僕の掛け布団を、モモがガバッと引き剥がす。うわっ。寒い。信じられない。とんでもないことをする子だな。
「う…………」
「ユキ、もう20時間寝てるよ。流石に体動かさないと危ないし、いくらイケメンのユキでも一週間お風呂入ってないのは、ちょっとモモちゃんいただけないです。不思議と臭わないし、何故かお肌はピカピカだし、髪の毛もサラサラだけど……。いや、ねえ、なんで? 怖いんだけど……」
 よく喋るなあ。よく喋るようになった。
 心を許してくれているし、ビシバシと扱かれるようにもなった。同棲したての頃を思えばとんでもない成長だけど、正直、今となっては全然、面倒くさい。
 でも嫌じゃないのだ。
 仕方なく、10分ぐらいかけて体を起こす。重すぎる頭を持ち上げただけで大いに褒めてほしかった。起き上がっただけで全身がパキポキと容赦なく鳴って、凄まじく凝り固まっていたことが分かる。
 うーん。これは。
「あったかいお湯に浸かりたくなってきたでしょ?」
 洗面器いっぱいにシャンプーやら石鹸やらを詰めながら、モモが誇らしげに言う。楽しそうで何よりだった。ため息をついて、笑う。
「……そうね。今モモに軍配が上がった」
「やったー! じゃあ優勝記念に、コンビニでアイス買って食べよう。ユキの奢りで!」
 そんなのでいいの? って、言えるようになったね。
 そんな僕たちは来週、この家から出ていく。