オレが無理をすると、ユキさんは怒るんじゃなくて悲しむ。だからあんまり、無理してるって見せないように努めてる。でも、それがまたいっそう、無理してる感、出してるみたいだ。だから最近は、あまり顔を合わせないようにしている。
難しいな。オレは実際のところ、無理したって全然良いのだ。だって、そうすることでユキさんが曲を作れるんだと思えば、そんなに嬉しいことはない。
だから今日もオレは、せっせと働く。レッスンも行く。ユキさんが眠ったあとに帰って、ユキさんが起きる前に家を出る。本当はもっとたくさん、色んなことを話したいけど。今のユキさんはオレを見ると必ず悲しそうな顔をするから、胸がしくしくしてしまって、バイトに精が出ないというのもある。
だから、今日もオレは、せっせと働く。せめてユキさんに楽な暮らしをして欲しい。
なんにも出来ないオレだから、今、出来ることだけを、必死にやっていくしかない。
それでいつかは、バンさんを見つけて、「良かった」って言って、笑顔で見届ける。それがオレの、役目で、夢。
工事現場のバイトが、めちゃくちゃ長引いた。でもそのかわり日給を多めに出してもらえて、ホッとする。
ようやくオンボロアパートが視界に入り、ふと見上げると、部屋に明かりがついていて驚いた。もしかして、電気を消す前に力尽きて寝てしまったのかもしれない。
少し駆け足で階段を上り、ドアを開けた。
「おかえり」
予想外にもユキさんは起きていて、しかも、キッチンで包丁を握っていた。反射的に声が出る。
「あ、ぶないですよ!?」
「最近は結構、大丈夫になったんだよ。……モモくんが居ない間に、練習したから」
ドキッとした。オレがユキさんを避けていることがバレているのだと直感する。謝ろうとすると、ユキさんがそれすら予想していたように言った。照れくさそうに。
「だから、料理で釣るぐらいしか思いつかなくて」
ダサいでしょ、と恥ずかしそうに笑うユキさんに、胸がしくしくして、ぎゅっと締め付けられた。唇が震える。
あなたの隣を手放せなくなるから、やめて。
って、言えたらよかった。言うべきだって分かってた。
オレの夢を、オレが壊そうとしている、深夜二時。