明けない夜はない、とは誰が言ったか。そんなものは嘘だと、千はとっくに理解していた。
千にとって夜とは、常に自らの内にあり、飼い馴らすことも出来ない亜空間だった。
音楽との対話がうまくいかない。それだけで、そこは途端に濃度を深め、真夜中になる。寂しくて、虚しく、足をすくわれた。冷たくて、暗く、野ざらしのそこに倒れ込み「もう二度と起き上がれない」と、何度も思った。
朝になって、昼になって、夜になっても。常に千は真夜中で在り続けた。いくら弦を掻き鳴らそうと、鍵盤を打ち付けようと、明ける兆しは見えない。
そうやっていつの間にか闇に呑まれ、結局は指を動かすこともやめてしまった。
万理が隣に居ないのだから、当然だ。
千にとって、あまりに正当な理由だった。
万理が戻ってこない以上、満足いくものが作れるはずもない。音楽との対話なんて、もう望むことすら許されないのだと、諦めた。早く全部終わりにしたくて、それすらうまく出来なくて、死んだように生きる日々が続いた。
それなのに、あの日、ドアを開けた瞬間から、千の内には夕暮れが訪れるようになった。
うらぶれた自分をあたたかく照らす橙色に、頭を撫でられた気がした。
ここは寂しくて、けれど虚しくはなく、どうしてか、立ったまま動かないでいるぐらいは、出来る場所だった。
何度も、何度もドアを開けた。開けなければ、ずっと真夜中のままでいられるのに。もういっそのこと、そのまま終わりたいと思っていたのに。ドアを開ける手を、止められなかった。
百の顔が見たいと、思うようになっていた。
それも出来れば――笑っている顔を。
その日、久方ぶりに、千は自分の内に朝焼けを見た。ピンクからブルーのグラデーション。どうしてか、百の色だと思った。もう片側は、確かに万理の色だ。
見上げると、ひどく目に染みた。ああ、そうか。
朝が来たのだ。
僕は、君と、Re:valeをやる。やるんだよ、モモ。
今、千の内には笑えるほどきっちりとした体内時計があった。朝、昼、夜、深夜。修羅場の時は針が乱れるけど、太陽の陽を浴びるとすぐに戻る。そんな単純な時計が。
いや、太陽と言うには、あまりに優しい。そうだな。別の言葉がいい。ああ、例えば――……。