在来線を使うことなんて稀も稀だ。
けれど今日はそんな、稀中の稀、の日だった。
敏腕マネージャーのおかりんが疲労でダウン、ユキは別現場に自分の車で向かっていて、オレは免許こそあるものの自分の車を持ってない。普通ならここでタクシーの登場なんだけど、使うにはちょっと距離がありすぎた。電車で十五分のところを、タクシーで四十五分、というのは、ちょっと。普段って、意外と優雅な時間の使い方してるんだよな、なんて思い返しもしつつ。結局、変装をして電車に揺られている。ピンでの雑誌撮影を終えた帰り、目的地は新宿。そこからは流石にタクシーを使って帰ろうと思う。
せっかくだし、とラビチャを開いてユキにメッセージを送る。『いま電車に乗ってるよ』『なんで?』
間髪入れずの返信に嬉しくなる。丁度休憩中なのかな?
『乗りたくて!』『ファンの子に捕まらないようにね』『ご安心を! 前髪全部キャップに隠して、服も無地の白TでThe無害!』『オーラもちゃんと消した?』『あっ、それは忘れてた……!』
笑わせる気満々のメッセージに、マスクの下で声が漏れる。やばい、そうだった。オーラ消してなかった!
『今消した!』『じゃあ僕も一緒に乗りに行こうかな』『絶対ダメでしょ! オレはともかくユキはどれだけ変装しても一秒でバレちゃうよ。脚が50mあるの自覚して!』『電車に乗るのも一苦労だね』そこでぽんぽん送られてきていた返信が少し止まって、多分いまツボに入ったんだろうな、と察した。オレのくだらない冗談に、ユキはめっぽう弱い。そういうところ、凄く好きだ。オレも自然と笑顔になる。
『じゃあ長い脚で迎えに行ってあげる。今どこの駅に居るの?』『迎えって? 収録終わったの?』『今日はバラシになっちゃった』『超嬉しい! ダーリンのお家で晩酌はどう?』『賛成』『新宿着いた!』
到着のアナウンスと共に駅に降り立つ。明らかにオレに気づいた子も居たけれど、オレは今、超がつくほどウキウキしてるから、ごめんね。ファンサはまた今度!
数時間後ラビッターに載った隠し撮りは、マスク越しにも分かるぐらい笑顔全開のオレだった。ユキは上機嫌にその写真を眺めている。そんなに?
「……でもあんまり乗らないで。写真ならまだいいけど、追いかけられたりしたら心配だから」
「やだ、ダーリンイケメン……」
でも車を横付けして「乗って」って言うユキ、最高だった。
また電車、乗ろう……。不順な動機で心に決めた。