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「モモ、お願いがあるんだけど」
「うん? なーにー?」
「キスして」
「……ご飯、そんなに不味かったかにゃ? オレ、結構頑張ったんだけど……。美味しかったと思うんだけど……」
「おいモモ。おまえは今のお願いを罰として扱うのか?」
 スン、と眇められた瞳は雄弁だ。ちょっと。「そうですけど」みたいな顔するの、やめて。普通に傷つく。
 昨日、モモはバラエティ番組のロケでハイになった状態――だった、とモモから申し訳なさそうに說明を受けた――で僕の家に突如として押しかけ、「これもらった! ソテーにしてみせます!」と鮭の切り身(を冷凍保存したもの)を見せてくれた。ソテーじゃなくて、恐らくムニエルの間違いね。頑張りの気配を察したので言葉にはせず、快諾してキッチンの道具を用意してやった。
 結果、あまりの手付きの覚束なさに不安になり、色々と口を出す羽目になった。切って焼くだけでも相当な時間を要した上でしっかり焦がし、付け合せを作る余裕もなさそうだったので、それについては全て僕が用意した。更には「オレ、センスないから盛り付けで大失敗しちゃうかも……」というモモの途方に暮れるような声に応える形で、盛り付けも代わりにしてあげた。工程まで含めていいのなら、昨日の食事は6割が僕作であり、故に不味いわけがない。そんなの、モモが一番分かっているはずだ。
 そもそも。昨日のあれは、僕が今週末締切のデモ制作に追われていることを知っての蛮行である。請求を跳ね除けられる理由がない。
「歩合制にせずに、キス一回しか請求しないんだから優しい方でしょ。昨日の分、耳を揃えてきっちり払うこと」
「モモちゃんの唇は歩合換算なんて出来ないはず……」
「歩合は僕の失われた作業時間の話ね。ほら」
 と手招くと、ぐぬぬと険しい顔で近づいてくる。取って食われそうな勢いにも、いい加減怯まなくなった。このやり取りは、数え切れないほどしてきたから。
 モモは未だに、キス一回に理由を十求めるので進展が無い。しかし、今回はスキップさせてもらうことにした。僕の作業を無邪気に、大いに邪魔したわけだから。
「……それはお金で解決できませんか?」
 食い下がるモモに少し笑って、本当に何も分かってないな、と腕を引き寄せる。顎に指を添え、教えてあげた。
「でもこのたった一回で、僕はおまえを一生甘やかすよ」
 破格でしょう。だからいい加減、それを頂戴。