耳に穴があいた。ユキさんは震えていた。
血って案外出ないもんなんだなあと思いながら、ユキさんの手からニードルを引き抜く。銀色の先端にはほんの少しだけ赤が付着していて、指で拭った。あとで消毒してしまっておけばいいか、とテーブルの上、いくらか遠い場所に置く。ユキさんの視線は、ずっとオレの耳に釘付けだ。多分、見ない方がいいのに。
すぐにファーストピアスを挿し込んだ耳は、穴の周りが赤くなっている。熱を持ったそこはじんじんと鈍痛を伴って、オレはそれがとても心地よかった。真っ青どころか真っ白な顔になってしまったユキさんに、パッと笑顔を向ける。
「思ったより痛くないですよ!」
「……ほ、本当に……? でも、凄く赤くなってる」
「あ、じゃあ冷たいやつここにあててくれますか?」
ついさっきまで名MCのフリをして、ユキさんを応援していた。その名残で、ちょっと声がうわずっているのが分かった。
――それではRe:valeユキさんのチャレンジでーす! 果たしてモモの耳に、一発で穴をあけることが出来るのか!? それでは運命の瞬間! 3・2・1……――
「つめたいやつ」
と、うつろに繰り返したユキさんは。ふらふらと冷凍庫から小さな氷のうを取ってきて、恐る恐る、オレの耳にあてた。――こういうのって、普通はタオルに包まないか? 度の過ぎた冷たさに、つい笑ってしまう。オレの奇妙な機嫌の良さを訝しみながら、しかしユキさんは何も言わずに看病に徹していた。あるいは、そうすることしか出来ないのだろう。
未だ震えが止まらない真っ白な手に、自分の手のひらをそっと添える。猫のように頬を擦り寄せると、ユキさんは驚きながらも、おずおずと口を開いた。
「やっぱり、痛い?」
「そんなことないです。……気持ちよくて」
あなたにつけられた傷が。
うまくいけば、一生塞がることのない傷がついた。ユキさんにとっても、一生忘れられない経験になってしまっただろう。信徒の心からの善意と、本気の献身。それらが生み出すものは、何も清らかなものだけではないのだ。
運命の瞬間、ブチッ、と皮膚が裂ける音がした。
オレにとってそれは福音であり――この傷は、聖痕になり得る。神様。あなたに触れることを、今だけお許し下さい。