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 ここ数年、夏はもう夏じゃない。夏という名の悪夢だ。
 千は畳の上にぐったりと体を横たえながら、遠のきそうになる意識を必死に手繰り寄せ、事実上の気絶を回避することに集中していた。
 今朝のことだ。
 尋常ではない暑さにうなされ、最後には耐えきれず飛び起きた。隣を見ると百は居らず、全身から滝のように吹き出る汗に、とうとう「この世が終わった」のだと思った。
 が、終わってなかった。
 クーラーが終わってた。
 百と二人、貧乏暮らし。超がつくほどオンボロのアパート。備え付けのクーラーは動いてることが不思議なほどの年代物で、寿命と言われればそれまでだった。
 早朝からバイトに出かけている百にラビチャでその旨連絡を入れて、汗を吸った布団と寝巻きを洗い、干す。そこまでやって、今はもう午後2時だ。最も気温が上がる時間、 体力的にも限界を迎え、ただただ横たわることしか出来なかった。
人間とは、僕とは、かくも無力な生き物か。
いや、そんなわけない。規格外の暑さがいけないだけだ。
今日の気温、3度だってニュースで見た。僕の平熱より4度も高いとかあり得ないだろ。
 諦めて気絶してしまおうかと思ったところで、ガチャンッ、と聞き慣れたドアの開閉音が耳に届いた。自然と瞼が持ち上がる。
 逆光の中、僕のスーパーヒーローが颯爽と登場した。
「わ〜〜ユキ〜〜! やっぱり溶けてる!」
「……モモ…………」
「取り合えずこれ! 氷嚢! 頭に乗っけて!」
「有難う……」
 ヒーローは、締めきっていた窓を開け放ち、テキパキと扇風機を設置して千の足元に風を送る。そのまま、千の隣に寝転び、二人で天井を見上げた。新しいシミ、発見。 「この家、アイドルが経営中のサウナってことで売り込めないかな? 話題性だけは抜群じゃない?」
「心霊現象付きで?」
「夏にピッタリだネ!」
 ポジティブ過ぎるでしょと笑うと、千の方に体ごと向いた百は、いたずらっ子のように声をひそめた。
「サウナでお金貯めて、最新のクーラー買っちゃおう」
 ニヒ、と笑う顔が愛しい。ふわふわの頭を撫でる。
「天才が相方で助かるよ」